一作目「玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること」を書いてから、ざっと二十六年。
今、ぼくは六十一歳となっているわけだから、逆算すると三十代半ばの頃に、この物語を書きはじめたことになる。
この間、漫画になり、映画になり、舞踊劇になり、歌舞伎にもなったりした。
もちろん、書きはじめた当初は、晴明と博雅の物語を、これほど長い期間書くことになろうとは思ってもいなかった。
書いた作品数は、長編、短編とあるが、タイトル数で八十編を超えた。あと数年で、百編を超えることになりそうである。
今や、晴明も博雅も、ぼくの中に住みついてしまって、いつでも会いにゆくことができる状況にある。現在の感覚は、彼らの物語を書くというよりは、彼らに会いに行って、ふたりからその話を聴いてくる、といったものに近い。
晴明と博雅だけでなく、道満や露子姫、蝉丸法師、賀茂保憲、蜜虫などのキャラクターたちも、自由に楽しそうに動いている。
道満というキャラクターがぼくは好きで、ちょっと晴明にはできないようなこと、晴明だったらやらないようなことについては、この道満にやらせて楽しんでいるのである。
今年から、あらたにふたりほど、レギュラーになりそうなキャラクターも現われて、時には、晴明も博雅も出てこないスピンオフ物語の主人公として、彼らを使うということも考えてゆきたいと思っているのである。
実は、すでに道満しか出てこない作品をこのシリーズの中で書いているのである。
他に、『源氏物語』の光の君を主人公にした『秘帖・源氏物語 翁―OKINA』という物語を、他社で書いたりしたのだが、こちらの作品にも、道満は重要な役どころで、光の君とからんでいるのである。
今回の、この本は、ぼく自身が『陰陽師』を書く時の資料としても機能するほど、充実したものとなった。
『陰陽師』を書く時、読む時に、傍に置いておきたい本である。
二〇一二年 九月二十九日
――小田原にて
(「あとがき」より)
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