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『伊豆の踊子』『坊ちゃん』『山月記』……名作の登場人物たちがドリームチーム結成――『ものがたりの賊(やから)』(真藤順丈)

『伊豆の踊子』『坊ちゃん』『山月記』……名作の登場人物たちがドリームチーム結成――『ものがたりの賊(やから)』(真藤順丈)

「オール讀物」編集部

Book Talk/最新作を語る

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説

日本文学の人気キャラが大暴れ!
『ものがたりの賊』(真藤 順丈)

 関東大震災直後の帝都に結集するのは、竹取の翁、坊っちゃん、伊豆の踊子……。『宝島』で直木賞を受賞した著者の三年ぶりの長編小説は、古典から漱石ら文豪の作まで名作の登場人物がドリームチームを組んで天下の危機に挑む、なんとも破天荒な物語だ。

「パスティーシュとか、既存作品をクロスオーバーさせる手法はイギリスなどには昔からあるので、日本でも誰か書いてくれないかなと長年思い続けて、よし、自分でやろうと一念発起したのが今作です。僕は国文学部出身でもあり、読書傾向がエンタメ系に転じてからも、いわゆる文豪の書いたものはずっと自分の中に根を張っています。自分の小説もまた脈々と続く日本文学史の末裔なんだと意識した時に、一度原点に戻ってみようと考えて。先人たちの胸を借りて全身全霊で遊ぶつもりで書き上げました」

 竹から生まれた娘が月に帰って以来、平安時代から生き続ける翁は、自らの“血の恩寵”を分け与えて不老となった六条院(『源氏物語』の貴公子)、李徴(中島敦『山月記』の虎)らと共に歴史の裏で暗躍してきた。時に坊っちゃんのような新顔を加えながら、迎えた大正の世。大杉栄の依頼を受けて陸軍密使を追う一党を待ち受けていたのは、瘴気(しょうき)漂う“纐纈(こうけつ)城”であった。

「国枝史郎『神州纐纈城』は取り入れたかった。現代では復刊の難しい作品ですが、悪の化身のような城主の造形が素晴らしい。エンタメに魅力的な敵は欠かせないので、他にも選りすぐりの悪役(ヴィラン)を登場させています。詳しくは明かせませんが、乱歩のあの人とか、三大奇書のあの人とか……」

 やがて陰謀は軍の制御をも超え、大地震の傷も癒えぬ帝都に疫病の恐怖が押し寄せる。無策な権力者、飛び交うデマ、不安に呑まれる民衆の姿は、今の世相にも重なるようだ。

「2019年の書き始めにはこんな世情は想像もしなかったのに、執筆中にどんどん現実が作中と符合していった。でも、人間が天災や疫病に立ち向かわされてきたことは百年前も二百年前も変わりがない。だったら、その時にどう困難にぶつかって行くか、示唆や救いも先人の文学にはあるはず。無鉄砲なくせに意外と小心でこじらせ系、だけど反骨精神は絶対に失わない、どんな時代でも等身大で通用しそうな坊っちゃんは、つくづく今回の主役(ヒーロー)にぴったりでした」

 原典へのリスペクトが込められた百以上の注釈も圧巻。「こんなところにオマージュが!」という発見も楽しい。

「読み終えて、原典も読んでみようと思ってもらえたら一番嬉しいです」


しんどうじゅんじょう 1977年東京都生まれ。『宝島』で2018八年に山田風太郎賞、19年に直木賞受賞。著書に『地図男』『墓頭』『われらの世紀 真藤順丈作品集』など。


(「オール讀物」12月号より)

単行本
ものがたりの賊
真藤順丈

定価:2,200円(税込)発売日:2021年11月08日

電子書籍
ものがたりの賊
真藤順丈

発売日:2021年11月08日

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