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装画を担当して16年! ありがてえ、めったにねえことだと思っておりやす

装画を担当して16年! ありがてえ、めったにねえことだと思っておりやす

文:南 伸坊 (イラストレーター)

『かわたれどき』(畠中 恵)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #歴史・時代小説

『かわたれどき』(畠中 恵)

 そんなわけで私は、時代物の挿し絵を描く場合は、昔の人、できれば江戸時代の人の描いた絵を参考にして描く。という方法を取っています。

 江戸時代の絵描き、というと大概、浮世絵師だったりします。哥麿(うたまろ)とか鈴木春信とかは好きですが、私がそのままマネして描くのはおそれ多いような、ダレかからご注意を受けそうな気がするので、なるべく、あんまり知られていない、素人(しろうと)に毛の生えたくらいな絵師のマネをするようにしています。

 畠中さんの小説を読んでから、その小説の様子を想像して、素人くさい絵の中から、それらしい人物をさがしてきて、物語のあるシーン、私が想像できるシーンを、その絵を参考にして描くのです。

 なるべく、江戸時代の人になったような気持で、今は亡き、落語家の柳家小さん師匠言うところの、江戸時代の人の「了見」になって描くわけです。

 私は江戸時代の、あんまり売れてない絵草紙の絵師でもって、絵は好きではあるけど、あんまり水際立った腕があるわけじゃなし。

 作者の先生の物語を、読んで「ほー」と思ったり「なるほど」と感心したり「うーむ」とそのうまいのにうなったりしたあとに、じゃあ、あのオイラが「うまいナ」と感心したところか、「へえ、こんなカラクリが、世の中にはあるんだねぇ」など思ったところを選んで絵にしようとしますが、なかなかそれが、うまいこといかないことのほうが多いです。

 ですから、あっしは、その読んでるしとの苦にならねえってーか、じゃまにならねえような絵を、なにかしようと、よけいなことをして、ややこしくならねえように、そういうとこに、気をつけておりやす。

 まァ、16年なんて、長え間、おつとめできたのはほんとに、ありがてえ、めったにねえことだと思っておりやす。

 私が思うには、畠中さんの小説は、江戸時代を現代に置き変えてとか、というんじゃなしに、現代人とは違う江戸人の気持や考え、つまり「了見」を、現代の私達に伝えてくれているんじゃないか?

 現代ではもめ事があれば「訴えてやる」だの「法廷で争うことになりますよ」とかになって、我々はそのコトバにびくつきますが、町名主のような制度は、とてもうまくできたやりかただと私は思います。

 そんなところに目をつけたのが、畠中さんのお手柄です。たくさんの読者がついているのも、ほんとうにすばらしいことです。

お調子者の跡取り息子、ついに後妻を取る!?まんまことシリーズ第七弾『かわたれどき』畠中恵

文春文庫
かわたれどき
畠中恵

定価:792円(税込)発売日:2022年02月08日

電子書籍
かわたれどき
畠中恵

発売日:2022年02月08日

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