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<連続対談 “恋愛”の今は>第四回 小川公代×西森路代 ドラマに息づくケアの遺伝子【“ケア”をめぐって】

<連続対談 “恋愛”の今は>第四回 小川公代×西森路代 ドラマに息づくケアの遺伝子【“ケア”をめぐって】

文學界3月号

出典 : #文學界
ジャンル : #小説

ケアの視点から見るとドラマはこんなに面白い! 二回にわたってお送りする対談、前篇は『HiGH&LOW』から『逃げ恥』まで。


「文學界 3月号」(文藝春秋 編)

■『HiGH&LOW』とおにぎり

 小川 個人的な恋愛の話はなくても大丈夫ですか? そこだけがちょっと不安で(笑)。

 西森 私も個人的な恋愛の話をする対談はできそうにないので、こんなタイトルですが誰とも個人的な話をせずに終わらせたいと思ってます(笑)。

 小川 よかったです。でも、すごく面白い企画だと思います。

 西森 ありがとうございます。小川さんの『ケアの倫理とエンパワメント』も面白く読ませてもらいました。読んでいたら、なぜかEXILEの人たちが総出演の映画『HiGH&LOW THE MOVIE』のことが思い出されまして。男性は正義のために抗争したり議論をしたりすることをやりたがるけれど、逆に女性は感情的な存在でそういう役割をやらせてもらえない。でも感情的である女性ということ自体は否定されるべきことではないから、男性的と思われていること、女性的と思われていることのどちらも持つことがいいのではないかっていうことが本には書かれていると思ったんですね。

 小川 そうですね。

 西森 そう考えると、悪しき男性性、つまりここで私が考えるのは暴力をむやみに使うということなんですけど、それを無理して女性が共有する必要はないなと思ったんです。暴力で街の秩序と均衡を守ろうとする“正義”の抗争に、女性が無理やり駆り出される必要はないんじゃないかなって思ったんです。

 小川 いいとこ取りをすればいいというね。私も「男らしさ」を全否定はしていなくて。もちろん『HiGH&LOW』の中で、琥珀みたいなちょっと間違ったほうに男らしさが暴走してしまった人を止める正義、そのための力の行使はありなのかなと思うんです。そういう正義が必要なこともある。ただ、琥珀みたいな人が間違った正義を使って、いろんな人に迷惑かけちゃってるんですよね。

 西森 あれを見て、私は『アナと雪の女王』みたいだと思いましたね。暴走したプリンセスのエルサと琥珀さんが重なって見えて。それをアナとクリストフが助けにいくところを、『ハイロー』では、九十九さんとコブラが助けに行く。

 小川 琥珀は本来、そんな人ではないと。

 西森 そうですね。エルサも琥珀も元はそんな暴走する人ではなかったけど、何か理不尽なことがあって一瞬、暗黒面に堕ち、ヴィランになりかけて、姉妹や兄弟(のような存在)のおかげで我に返る。それを止めるときに『HiGH&LOW』の場合は、あまりにも琥珀のパワーが強すぎて暴力が必要だったんですね。

 小川 確かに『アナ雪』もエルサの暴走をアナが止めに入りましたね。

 西森    そして別の場面ですが、『HiGH&LOW』には苺美瑠狂という女性のグループがいて、街の秩序を守るための抗争に加わろうとするけれど、やっぱりそれはやめて待つんですね。そこが、小川さんの本と関係するところだなと。

 小川 おにぎり作ってましたね。

 西森 やっぱり、苺美瑠狂だって、オラーって一緒になって戦ってたら見てる方としてはスッキリするという気持ちもわかるんですよ。でも、暴力で抗争を解決するというのは、やり方として戦争と同じで。

 小川 巻き込まれると死んじゃいますね。

 西森 そうなんです。もちろん、映画の中では、セイラという別のグループに所属する女性キャラは戦うわけですし、女だって同格でケンカできるんだっていうフィクションもあってもいいんですけど、あそこで戦わないという選択はありだなと思って。彼女たちがおにぎりを握ることがケア役割になってるのはよくないんですけどね。男性でも女性でも、そこで「戦わない」ことを選択できることってありだと思うんですけど、そう言うとやっぱり反論もあって。

 小川 わかります。文学を研究し始めて、こういう映画のナラトロジーを見ていくと、正解がなくなるんです。男性がしていることを女性ができないというのは、ある種、フェアじゃないとか、力を付けて同じ土俵で戦うというのがリベラルフェミニズムですよね。私も知性や肉体面で男性と渡り合うことが大事というリベラルフェミニストだったこともあり、マッチョな政治・社会学を専攻していたんですが、二十五歳くらいで文学研究に移行したんです。物語って結局は文脈を正しく理解して、そこで発動する自分の倫理みたいなものを、その文脈にあてがっていくアプローチです。女性があえて腕力的なケンカや武力による戦い、あるいは言論の闘争に参加しないことも、場合によっては価値が与えられうるのかなと。

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