- 2022.04.11
- 特集
アスリートへ尊敬の念をこめて<追悼 西村京太郎 担当編集者が見たベストセラー作家の素顔(3)>
文:瀬尾 泰信 (現・法務・広報部部長/DX推進室室長)
『消えたなでしこ』(文春文庫)
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
鉄道ミステリーの第一人者として生涯647もの作品を遺した西村京太郎さん(享年91)。空前絶後のベストセラー作家に伴走した編集たちが、担当作品とその素顔をリレー形式で綴っていく。
東日本大震災が起きた2011年、哀しみに打ちひしがれた日本人の心を勇気づけたのは、同年開催のサッカー女子W杯で初優勝を果たしたなでしこジャパンでした。先生も澤穂希選手や宮間あや選手をはじめ、強豪国相手に見事なチームワークと個人技で勝利を重ねていくなでしこ達の姿に感銘を受け、彼女たちをぜひとも作品に登場させたい! と考えたのが、本作誕生のきっかけとなりました。
恒例の取材旅行は、岡山県美作市へ。2012年ロンドン五輪の直前に、宮間選手やゴールキーパーの福元美穂選手が所属するチーム「岡山湯郷ベル」の練習を見学しました。選手たちの溌剌とした動きに驚き、目を細めていた先生の姿を思い出します。
「皆さん、むしろ小柄で、遠くからは可愛らしい女の子の集団に見えて、意外だった。ところが、シュートの練習に進むと、途端に猛烈な音とスピードになって、見ていた編集者が『さすがにすごいね』と喚声をあげた。小柄で可愛いのに、すごいのである。(中略)監督が『こちらは、ミステリーを書いていて、君たちを取材に来られたんだ』と、いったとたんに『わあーッ』と声をあげ、ニッコリし、一斉に『監督を犯人にしてくださあ~い!』と、大声を出したのには、びっくりした」(あとがきより)
物語はというと、「ロンドン五輪の直前になでしこジャパン22人が誘拐され、身代金100億円を要求される」という壮大なストーリーに。 十津川警部はチームでひとり誘拐を免れた澤穂希選手に捜査協力を依頼し、プレー同様頭脳明晰な澤選手と十津川の「夢の2トップ」が事件解決に向け動き出す、という驚天動地の展開となりました。選手のリクエスト通りに、監督が犯人だったかは、読んでみてのお楽しみ。
実は先生、この作品の前にも十津川シリーズにスポーツ選手を登場させています。代表作はなんといっても1976年の『消えた巨人軍』でしょう。阪神戦のため東京から大阪へと向かう新幹線に乗った巨人軍の選手が行方不明になるという、これまた超絶トリック・ミステリー。王・張本など当時の選手も実名で登場します。先生のアスリートへの尊敬の念があふれる作品、ぜひ読者のみなさんにお楽しみいただけたらと思っています。
消えたなでしこ 十津川警部シリーズ
発売日:2016年01月29日
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