- 2022.04.22
- インタビュー・対談
ルールなんてものがあったとしても、壊せばいいのだ――著者初の独立短編集『ついでにジェントルメン』(柚木麻子)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
菊池寛的生き方に見る自由と希望
「ジェンダーの話をしていると『いや女性もつらいだろうけど、男だって大変で』と、ぐいぐい入ってくる男性がいて、永遠に女性が喋るターンが回ってこないことがありますよね(笑)。なんだろうこのヘンな感じは、と常々抱いていた違和感を、できるだけ面白おかしく小説にしてみたかった」
柚木さん待望の新刊は、デビュー13年目にして初となる独立短編集。
ワンオペ育児中のママはワイン一杯、お鮨一貫口にするのさえ苦労する(「エルゴと不倫鮨」)、女性には美味しい珈琲を飲んで安らげる空間がない(「アパート一階はカフェー」)、マスク必須になってようやく男性の視線にビクビクせずに済む(「あしみじおじさん」)……等々、昭和六年から令和の現在まで、「安心」と「ひとときの寛(くつろ)ぎ」を求めて苦労する女性たちの状況が、7編を通じて描かれていく。
興味深いのは、そうした負荷を他人に押しつけている男性ほど無自覚で、恬(てん)として「男ってつらいんだよ」と一人語りしたり、逆に“男のロマン”を滔々と語って聞かせたりすることだ。
「本当に生きづらい人は、それを発言することさえできません。格好つけて弱音を吐いたり、ロマンを語ったりできる、それを聞いてもらえる立場にいるってこと自体、ある種の特権を享受してるんだよ、ということを知ってほしいんです。会社帰りに創作鮨をつまみながら部下の女性にウンチクを語るのだって、家事・育児を全部“外注”できる裕福な男性にだけ許される贅沢じゃないんですか? と」
ぼんやり生きている世のオジサンたちには、我が身を顧みるきっかけにもなる本書。ことに男性の一つのロールモデルとして、かの文豪・菊池寛が登場する(「Come Come Kan!!」「アパート一階はカフェー」)くだりは、最大の読みどころではないか。
「愛人を秘書にしていた菊池寛がジェンダーをわかっているとは全然思わないし、どちらかというと私は“アンチ寄りの寛ファン”なんですけど(笑)、彼が凄いのは、石井桃子さんはじめ才能ある女性を次々に見出して、気前よくチャンスとお金を与え、あとは一切口を出さなかったこと。フェミニストの女性たちを応援したり、小説で書いたように、女性だけの喫茶店の開店資金を出したりもしているんです。
現代の男の人も、下心や見返りを求めて女性に接するのではなく、自分が面白そうと思ったら応援するし、応援することで自分自身が楽しむ。そしてヒーロー面(づら)しないでスッと引っ込む。寛のスタイルには、今こそ見習うべきところもあるんじゃないでしょうか」
ゆずきあさこ 1981年東京都生まれ。2015年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞、翌年同作で高校生直木賞。著書に『踊る彼女のシルエット』『らんたん』など。
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