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酔っ払いに絡まれる女性をすぐに助けられず…悔やみ続ける男性に「わしは、君を誉めたい」と伝えた作家・伊集院静の“真意”とは?

酔っ払いに絡まれる女性をすぐに助けられず…悔やみ続ける男性に「わしは、君を誉めたい」と伝えた作家・伊集院静の“真意”とは?

文:伊集院 静

『大人への手順』より #1

出典 : #文春オンライン
ジャンル : #随筆・エッセイ

かつての“ヤンチャ少年”が考える親孝行とは

2022年に成人します。僕は中高生の頃、少しヤンチャで、両親に迷惑をかけてしまいました。しかし、両親が僕をあたたかく見守ってくれたおかげで何とか立ち直ることができ、いまは大学に通わせてもらっています。そこで両親にこれまでの恩返しをしたいのです。バイトで貯めたお金でプレゼントをしたり、レストランで食事をするのがよいかもしれないと考えていますが、伊集院先生はどう思われますか。(19歳・男・大学生)

 そうですか……、大学生の君にもヤンチャな時代がありましたか。

 その折、ご両親が、親身になって、見守って下さったのを、君はきちんと覚えていて、その折の感謝の気持ちを大学生になった今、恩返ししたいのですか。

 エライね。親孝行は大切なことです。君は少しデキ過ギだけど、それで何かプレゼントしたい、食事をご馳走したいのかね。何がイイか? そりゃ、君が決めればイイ。

 ご両親は、君がそう思ってるだけで十分だと思うし、その気持ちを知れば、さぞ喜ばれるでしょう。

 そんなことが、実行できるとイイね。

伊集院静氏 ©文藝春秋

 さて、ひとつ言っとくが、そんなことを実行できる人は、世の中にそんなにいません。

「えっ! 伊集院さん、皆、そんなに親不孝なんですか?」

 そりゃ、君がデキ過ギで、普通の子供は、親に感謝する気持ちはどこかに持ってるでしょうが、プレゼントしたり、食事をご馳走したりはしないものです。

 そうしない子供たちが親不孝とも、私は思っていません。それが普通の親と子なんです。

 さて、君は、そんなふうに親孝行な子供で生きて行けば、それでイイでしょうが、他の子供は、なかなかそうできないものです。自分のことで、正直精一杯なんです。私はそれでイイと思います。

 なぜなら、この世で恩を受けた時、恩を与えてくれた人に、当人は決して感謝を返すことができないのが、世間というものです。

 私は、世の中が親不孝だらけと言っているのではなく、世の中が恩知らずであふれているとも申しません。

 いいですか、これから言うことをよく覚えておきなさい。

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定価:1,100円(税込)発売日:2022年04月22日

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