『世界まる見え!テレビ特捜部』や『恋のから騒ぎ』など数々の人気長寿番組を生み出したテレビマン吉川圭三氏が、小説に挑んだ。『全力でアナウンサーしています。』(5月24日発売)の執筆の舞台裏に迫る。
「ずいぶん前に、編集者から『テレビ局を舞台にした小説を書きませんか』とオファーを受けたんです。テレビマンを主人公にした小説は一度書いたので、次は女性アナウンサーが主人公だろう、と」
ビートたけしやさんま、所ジョージなどと組んできたテレビマンが、なぜ「女性アナウンサー」を描こうと思ったのか。
「十数年以上前のことになりますが、日本テレビでチーフプロデューサーとしてバリバリ働いていたときに、過労とストレスで体重が100キロ近くになってしまったんです。ドクターストップといいますか、当時の氏家齊一郎会長の意見もあって、いったん制作現場を離れて、アナウンス部に部長として異動しました。わずか8カ月ほどでしたたが、そのときに一緒に働いたアナウンサーたちがとても魅力的で。特に女性たちの心の奥に何があるのか、を小説として描いてみたいと感じました。一見派手に見えますが、『女性アナウンサー』にも虚栄や輝き、喜怒哀楽もあります。そのリアルを読者に感じて欲しいと思い書きました」
『30歳限界説』『アイドル化』女性アナの世界に感じた「ニッポン社会」のリアル。
執筆に際し、著者は7人のアナウンサー経験者に取材した、というが、いわゆるモデル小説ではない。
「私の求めたのは、ニッポン社会のリアルでした。『30歳限界説』『アイドル化』『恋愛、結婚』というキーワードで、アナウンサーの世界を描くことで、ジェンダー面で、遅れているとされている日本企業の現在を描けるのではないかと感じたんです。
また、実際にはアナウンスの現場には、同僚たちによる足の引っ張り合いは、さほどないようです。まず自分の現場のことを大切にしているからなのですが、ただ、それでは人物たちが交差せずに、物語にならない。『作っている人が楽しくないと、見ている人も楽しくない』という考えで番組を作っていましたから、自分が面白いと思える物語になるまで熟成させていたら、あるとき、エンタメとして、これは行ける! と感じたんです」
主人公は、キー局の看板アナウンサー櫻井亜紀。この櫻井に「不倫疑惑」が浮上した。同僚アナである山里紅緒、窪田ディアーヌたちにも、次々とスキャンダルが降りかかる。
彼女たちを「引きずり降ろそう」とするテレビ局の「闇」の勢力。アナウンス部長・半田博巳と櫻井らが戦いに挑む。
半田の妻は、以前アナウンサーだった。恋愛、結婚、出産、復帰の過程で、様々な壁にぶつかっていた。ある悲劇の後で、そのことを知った半田は……。
エンタメはもっと面白くなれる。他番組の真似をせず、自身が熱中できるものを!
「これまで携わったテレビでは、ある特定の解釈を見ている人に届けるといいますか、ある種、押し付けることがありました。今回、小説では、行間を読みながら、楽しんでもらいたいと思っています。長野智子さんには、『こんな人たちフジテレビにはいなかった。え、他の局ではあるの?』というコメントをいただきました。リアルさとフィクション性をいれこんだ物語になったと思っています」
テレビを含めて、エンタメの現場への熱い思いを著者は、持ち続けている。
「テレビの制作現場の後輩たちには『マーケティングなどに影響されすぎずに、自身が熱中できる面白いと思うものを他の番組を真似しないで作ってほしい』と常々、話しています。ニッポンのエンタメはもっと面白くなれる! この小説もこだわりすぎて、ちょっと怖すぎる部分もあるかもしれません。『珍味』のような味わいを楽しんでもらいたいですね」
プロフィール
吉川圭三(よしかわけいぞう)
1957年、東京都生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、1982年に日本テレビ入社。『世界まる見え!テレビ特捜部』『恋のから騒ぎ』『特命リサーチ200X』などを手掛けた。アナウンス部長、制作局長代理などを経て、現在、ドワンゴのエグゼクティブプロデューサー。著書に『泥の中を泳げ。 テレビマン佐藤玄一郎』(駒草出版)、『たけし、さんま、所の「すごい」仕事現場』(小学館新書)、『ヒット番組に必要なことはすべて映画に学んだ』 (文春文庫)。
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