- 2022.02.18
- 特集
発表からわずか3日で白紙撤回! BTSと秋元康氏のコラボ騒動――韓国エンタメはなぜ変化し続けるのか
文:菅野 朋子
『韓国エンタメはなぜ世界で成功したのか』(菅野 朋子)より #2
ジャンル :
#ノンフィクション
近年、韓国発のエンターテインメントの世界的な活躍のニュースは毎日のように目に入ってきます。7人組ボーイズグループBTSの国連でのスピーチやパフォーマンス、Netflixドラマ『イカゲーム』や『愛の不時着』の世界的ヒット。
その韓国エンタメ産業の躍進は、実は韓国社会の変化と大きく結びついています。90年代後半、日本の大衆文化ファンの韓国の若者たちをルポし、現在もソウルに住み文春オンラインに韓国をめぐるニュースを執筆するノンフィクションライター・菅野朋子氏は、新著『韓国エンタメはなぜ世界で成功したのか』(文藝春秋)で、その韓国エンタメの世界席巻に至るあらましと、いまなお残る前時代的な闇を、様々なエピソードを交えながら、わかりやすく解説しています。ここでは同書から、韓国エンタメをめぐって起こった事件について抜粋、紹介します。(全2回の2回目/前編を読む)
◆ ◆ ◆
BTSの国連スピーチ
2021年7月21日、韓国の青瓦台(大統領府)は、国連に招かれた「BTS」を「未来世代と文化のための大統領特別使節」に任命した。
その2カ月後の9月20日、BTSは国連のイベント「SDG(持続可能な開発目標)モーメント」で、コロナ禍を生きる若者たちへのスピーチを行い、「未来への希望」を強く語りかけた。BTSの国連でのスピーチは2018年から数えてオンラインも含めて3回目。いずれも国連からの要請に応じたものだ。スピーチの様子やパフォーマンス、そして国連グローバルコミュニケーション局事務次長によるインタビューは国連の公式YouTubeチャンネルで公開され、パフォーマンスの再生回数は1日で1300万回を超える新記録を達成した。
BTSの国連でのパフォーマンス。 YouTubeの『国連』アカウントより
韓国エンタメ産業が政治的にも国際的な影響力を持つように
BTSが国連のイベントに参加する一方、文在寅(ムンジェイン)大統領も訪米して国連総会に参加していた。総会で演説を行った後、文大統領は、米メディアでのインタビューや美術館探訪などをBTSと共に行動しており、韓国では、BTSの特別使節任命なども含めて、韓国政府がBTSを利用しているのではないかという批判が挙がった。
韓国エンタメ産業の存在がグローバル市場のなかで大きくなると同時に、政治的にも国際的な影響力を持つようになった。それはスターたちが、韓国国内での在り様と、国際関係との狭間で難しい対応を迫られることでもある。
政治的トラブルとは無縁な存在に思われるBTSも2017年のライブでは、ナチスの旗を連想させるデザインの旗を掲げる演出をしたとされて問題になり、メンバーが過去にナチス親衛隊のロゴを入れた帽子を身に着けメディアに露出していたことと合わせて、ユダヤ人人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」から抗議を受け、謝罪している。
韓国の両隣、日本と中国については、輸出規模が大きいだけでなく、その歴史的経緯から政治的にもとりわけ敏感になる。
2018年には、BTSは日韓双方で政治的なトラブルを経験することになった。順に見ていこう。
秋元康氏は右翼?
2018年9月、BTSの所属事務所HYBE社(当時はBig Hitエンタテインメント、以下同)のパン・シヒョク氏は、秋元康氏とタッグを組み、日本オリジナル楽曲として秋元康作詞の「Bird」をBTSの日本版シングルに収録することを発表した。
秋元康氏といえば、日本では80年代の「おニャン子クラブ」から始まって、近年では「AKB48」や「乃木坂46」など「会いに行けるアイドル」というコンセプトの仕掛け人であり、これらのアイドルの楽曲に歌詞を提供して彼女たちのCDを大量に売りさばく、巨大な力を持つプロデューサー、そんなイメージだろうか。今の日本の大衆文化の“現実”を作り上げたことは間違いない。
しかしこの発表の3日後にはコラボは白紙となり、2カ月後の11月7日にリリース予定だったシングルでは別の人物の作詞に差し替えられるという騒ぎがあった。
安倍晋三首相(当時)との深いつながり
コラボ計画が発表されるやいなや、BTSのファンをはじめとして、他の韓流ファンからも猛反対する声が上がった。
韓国のファンの反対の理由には、安倍晋三首相(当時)との深いつながりを理由に挙げている人が多く見られた。
安倍首相は2013年のクールジャパン推進会議で秋元氏と知り合って以来、関係を深め、15年には、安倍首相と秋元氏とのツーショット写真が写真週刊誌に掲載されたことでその関係は公然のものとなっていた。17年7月には、前月に沖縄で開かれたAKB総選挙で国費が費やされたことが日本では問題化している。
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