「#MeToo」運動は、今から約4年半前、2017年10月に起きた。きっかけは、「ニューヨーク・タイムズ」紙と「ニューヨーカー」誌が、わずか数日違いで、ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの長年に及ぶセクハラや性暴力を暴露する記事を掲載したこと。それらの記事を見た女性たちがさらに名乗り出て、俳優、監督、スタジオのトップなど数多くのパワフルな男たちが業界を追放されることになったのである。
『キャッチ・アンド・キル』は、引き金となった「ニューヨーカー」の記事を書いたローナン・ファローがどのように取材を進めたのかを綴るノンフィクション本だ。だが、これは単にワインスタインがどれほどひどい男で、どんな女性たちに被害を与えてきたかを語るものではない。彼のような男が長いこと若い女性たちを食い物にしてこられたのは、業界や党派を越えた、金と権力をもつ男たちが築き上げた社会構造があったからなのだ。本書が明らかにしたその実態には、実に驚かされる。
たとえば、トランプ前大統領の過去の不倫が明らかになったこと、ワインスタインがヒラリー・クリントンを熱心に支持し、多額の資金貢献をしていたこと、今から30年前にウディ・アレンが養女に性虐待をした疑いで捜査されたこと。多くの人が別々のこととして受け止めてきたそれらのことが、ここでは微妙につながっていく。
数あるトランプのスキャンダルが表に出ないよう握りつぶしてきたのは、トランプ支持を公に打ち出した唯一のメディア「ナショナル・エンクワイヤラー」。だが、この編集長は、トランプのライバルを支持するワインスタインにも同じことをしてあげていた。一方、アレンから被害を受けたと訴え続ける姉ディランの味方であるファローは、「ザ・ハリウッド・レポーター」にその件に関する意見記事を書いた。それを読んでいたからこそ、ローズ・マッゴーワンは、ワインスタインにレイプされたことについてファローに話そうと決めたのだ。
自分の行動を誰かが探っていると察知すると、ワインスタインはあらゆるコネクションを使って取材を妨害した。それはファローが所属し、この取材を進めていたメジャーネットワークNBCにも及んでいる。圧力を受けたNBCがこのネタを葬ろうとしたため、ファローは「ニューヨーカー」に持っていき、彼らは恐れることなく掲載したのだ。
だが、誰よりも勇敢だったのは、ファロー。NBCをクビになる不安はもちろん、身の危険まで感じていたにも関わらず、声を上げてくれた女性たちのために事実を報道すると彼は決意したのである。おかげで今、世の中は少しましなところにある。彼のジャーナリスト精神と正義感に改めて敬意を表する。
Ronan Farrow/作家。「ニューヨーカー」誌に発表したハーヴェイ・ワインスタインに関する記事でピューリッツァー賞はじめ数々の権威ある賞を受賞。映画監督ウディ・アレンと女優ミア・ファローの実子にあたる。
さるわたりゆき/1966年生まれ、神戸市出身。女性誌編集者を経てL.A.在住の映画ジャーナリストに。著書に『ウディ・アレン追放』。
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