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第166回直木賞 米澤穂信『黒牢城』<受賞のことば>

第166回直木賞 米澤穂信『黒牢城』<受賞のことば>

米澤 穂信

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説 ,#エンタメ・ミステリ

人気作家のW受賞が大きな話題を集めた第166回直木賞。きたる7月20日(水)に行われる第167回直木選考会を前に「オール讀物」誌上に掲載された、米澤穂信さんの<受賞のことば>を特別公開しました。


『黒牢城』(米澤 穂信/KADOKAWA)

『黒牢城』という題名は、一般には、黒田(小寺)官兵衛が牢屋に閉じ込められている城というほどの意味だと受け止められるのではないか。私もそれで不服はない。

 だがこの題名には、黒々とした大河の流れに閉ざされ、あたかも一個の牢であるかのような城、という意味も込められている。これは有岡城ではなく、作中に登場するもう一つの城のことだ。

 そしてもう一つ、黒洞々たる闇のような、何者も出られぬ牢のような、何者も寄せつけぬ城のようなものを暗示してもいる。これはむろん、憂き世のことである。

 小説の最後で私は、その闇に光を射した。なぜなら、古い史料にそう書かれているからだ。あるいは、史料は事実ではないのかもしれない。だが仮にそうであったとしても、私はこう想像する。筆を曲げた何者かもまた、光を欲したのだと。――たとえその光が、嘘だとしても。

 授賞にお礼を申し上げます。ありがとうございました。


よねざわ・ほのぶ
1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞し、デビュー。11年『折れた竜骨』で日本推理作家協会賞、一四年『満願』で山本周五郎賞、21年『黒牢城』で山田風太郎賞を受賞。

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