酒井さんが、「恥」についてお話を伺いたい! とラブコールを送ったのが小林聡美さん。
俳優という人前に立つお仕事ながら、「恥ずかしい」という思いをずっと抱き続けているという小林さん。
いつも新鮮で、唯一無二の存在感の秘密はそこにあるのかも……?
酒井 唐突ですが、今日は小林さんの“恥ずかしい話”を伺えればと思うのですが……。
小林 もう毎日恥ずかしいことだらけです(笑)。
酒井 性格的に、恥ずかしがり屋さん?
小林 もともと注目されるのはあまり得意じゃないです。三人きょうだいの真ん中で、子どもの頃は主張しないとスルーされがちだったので、それなりに自己アピールしていたと思うんですけど、いざ注目されると「あ、私はいい……」みたいな(笑)。
酒井 なるほど、中間子だからこその性格……。学校では、人前で何か発表したりすることは得意でしたか?
小林 得意ではなかったですけど、自分が指名されて順番が来たら、ここでゴタゴタいわずにだまってやればこの場が丸くおさまるなと思って……。
酒井 ほとんど義侠心ですね(笑)。では、そんな性格の小林さんがお芝居に興味を持ち始めたのはどんなきっかけだったのでしょう。
小林 十三歳くらいのとき、昔、よく新聞のテレビ欄の下に「新人俳優募集!」みたいな広告がありましたでしょう。その中から安心そうな俳優さんがいる事務所を選んで(笑)、友達と応募したのがきっかけです。テレビドラマが好きだったから、ちょっと面白そうだと思ったんでしょうね。クラスの発表会でみんなでお芝居をして、バカなことをやってワイワイ盛り上がるのも結構楽しんでました。ただ、「私を見て……!」みたいな恍惚感はまったくなかったですね。ほとんどドリフ気分でした。
自然体のお芝居の秘密⁉
酒井 俳優さんだからといって、人前で何かをすることが得意な人ばかりではないわけですね。となると、演じることにつきまとうと思われる恥ずかしさを、どうやって克服されてきたんですか?
小林 いや、今も克服できてないです(笑)。二十代の頃は、まわりを見渡すと綺麗な方ばかりだし、かたや自分は見た目も愛想もよくないし、どうも私、場違いな世界にいるなあ、ってずっと思ってました。それが、「あれ、意外とそんなにみんな人のこと気にしてないかも」って気づき始めたのが三十代過ぎて。最近はもう「誰も人のことなんて気にしてないから大丈夫!」という心境に至りました。
酒井 加齢による羞恥心の克服……わかる気がします(笑)。
小林 酒井さんは、この本(『無恥の恥』)の中で不特定多数に向けて書いているのはまったく恥ずかしくないけれど、知り合いが自分の本を読んでいると思うとすごく恥ずかしいって書いていらっしゃいましたよね。私も実際にお客さんが目の前にいるのは恥ずかしいです……。お願いだから、帰ってください、って思っちゃう(笑)。
酒井 自分の内面をさらけ出すからこそ、相手の顔が見えるのが恥ずかしい。その辺りは演じることと書くことは似ているのかもしれないですね。
小林 それから「すべてのエッセイは自慢である」というのも、確かに! まさにその通り! と思わず笑ってしまいました。「私ってこういう人間なんです」なんてよそ様にはまったく余計なお世話ですよね(笑)。
酒井 書くことも、演じることも自意識と切り離せませんが、小林さんのお芝居は、そういう自意識を感じさせず、自然体なところが素敵です。
小林 それは自然体というのではなく、ボロが出ないようになるべく何もしないでいるのを自然体だと思われているのではと最近思うようになりました(笑)。
酒井 そんな……まさかのお答え(笑)。でも、小林さんのお芝居がいつも新鮮なのは、ご自身を客観視する感覚と「恥ずかしい」という気持ちを持ち続けているからなのかな、と思います。小林さんはエッセイの名手でもありますが、エッセイでも自然に書かれているのですか?
小林 いや、むしろエッセイは、自分の中のやさぐれた部分を奮い立たせて書き殴っている感じです。やさぐれないとできません(笑)。もっといえば、インタビューっていうのも気恥ずかしいです。「素敵なこの人」を紹介する場だから、キラキラしたものを求められるし、「最近はこんなことにこだわってます」みたいな、読者が素敵だと思うようなことを言わなくてはいけない雰囲気があって。「どうしよう、何もないな」なんて思いつつ、多少それっぽいことを言っちゃって、それがまた恥ずかしい(笑)。
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