- 2020.07.22
- 書評
「女は、怖い」のではない。「怖いから、女」なのだ
文:酒井 順子 (エッセイスト)
『ウェイティング・バー』(林 真理子)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
子供の頃に、私が真剣に「怖い」と思っていたもの。それは、地震とノストラダムスの大予言、そして幽霊でした。大地震が来て、地割れの中に落ちたらどうしよう。一九九九年に地球は滅びてしまうんだって? 一人で留守番している時におばけが出てきたら? ……という三大恐怖に脅かされながら一生過ごさなければならないことも、さらにも一つ怖かった。
しかし人間、大人になると食べ物の嗜好も変わるように、恐怖を感じる対象も変わってくるものです。高校生にもなると、試験前の勉強中に“今、地震がくれば明日からの試験は中止になるはず……”と密かに願いました。ノストラダムスの大予言にしても、同じく高校生にもなると、“一九九九年っていうと、私も三十すぎかぁ。その頃には結婚もして、子供も産んで、一通りの人生経験はしてるだろうなぁ。マ、そこで死んでも未練はないかもねー”などと思うようになったのです。(一九九九年も間近の頃、結婚も出産もまだしていないというのは、ちょっと予定とは違いましたが)
幽霊も、怖くなくなりました。本当にいるのかいないのかさえわからないようなものを怖がる暇が無くなったのかもしれないし、曖昧なものに恐怖するだけの想像力が失われたのかもしれません。しかし、幽霊が怖くなくなった最も大きな原因は、「本当に怖いのは、幽霊よりも生きている人間なのだ」ということに気づいたことなのです。
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