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「『大丈夫。誰もそんなに気にしてないから』っておまじないを唱えてます(笑)」

「『大丈夫。誰もそんなに気にしてないから』っておまじないを唱えてます(笑)」

『無恥の恥』(酒井 順子) 文庫化記念対談 ゲスト・小林聡美さん

出典 : #文春文庫
ジャンル : #随筆・エッセイ

 生きていることの恥ずかしさ

小林 そんな経験を積み重ね、年をとると開き直る術を覚えますよね。突き詰めれば、生きているってこと自体、恥ずかしいんですから。

酒井 同感です! 年を重ねるにつれ、やたらと恥ずかしがることはなくなって図々しくはなってきましたが、生きていることの恥ずかしさや、恥ずかしい過去の言動がどんどん浮上してきている気がしますね。自分が存在していること自体が恥ずかしい(笑)。書くことに関しても、若い頃は、「よくこんなこと書いて恥ずかしくないね」なんて言われても「別に~」と思っていましたが、大人になるにつれ、恥ずかしさが増してきました。自分の書いたものが、印刷されて、残ることを考えると、「果たして自分がこのようなものを書く意味は?」と思う。昔は何も考えてなかったですねぇ。

小林 大人になるにつれ、いろいろ配慮することを覚えて、自分の行為が人を傷つけることもあれば、イヤな思いにさせることもあるってわかってきますからね。でも、生きていること自体恥ずかしいんだけど、人間ってそういうものなんだ、っていう大らかさも同時に備わってくる気がします。

酒井 そうですね。人間が「恥」とは無縁でいられないという事実が最終的に行き着くところは「死」なのだと思います。身内の死に際していつも思うのは、人が死んでしまったら「見られる」ことしかできなくなってしまう、ということ。自分の身体も死に顔も皆から見られ、所持品も全部人に処分してもらうしかない。そう思うと、「委ねる」という姿勢が年をとるにつれ大切になっていくのかもしれないなって思います。誰にも迷惑をかけないで死ぬのは無理なんですよね。それにしても、自分のお葬式のことを考えると、今から恥ずかしいです。みんなで故人の話をしたりするんですよ……。最後に顔を見てやってください、なんて言われて。やだな……。

小林 家族や本当に親しい人ならまだしも、何年も会っていない人だったら微妙ですよね。亡くなった方のほうもギョッとするかも。「見ないで!」って(笑)。

酒井 コロナでお葬式の形態もだいぶシンプルになりましたが、いいことだと思います。だって、お通夜と告別式って多すぎません? 2デイズのイベントなんて(笑)。

 

 持ちつ持たれつの中で育まれた恥の感覚

小林 その土地の伝統や風習にのっとって、ということですよね。日本人の恥の感覚って、小さな島国の中で、持ちつ持たれつ、人の立場を思いやりながら暮らしてきた中で育まれてきた部分もあったんでしょうね。

酒井 生きる知恵でもあったのかなと思います。他人から見てどうなんだ、って自分に問いかけながら自分の居場所でちんまり生きていくという意識は、広大な原野で生きている人たちとは違いますよね。最近は日本人の恥の感覚も大きく変わって、昔の親は謙遜のあまり自分の子どもを「豚児」呼ばわりしていたのが、今ではSNSで「ウチの王子」「姫」と、堂々と愛でています。でも、昔の人も「豚児」という言葉に、たっぷりの愛情を込めていたんですよね。わかりにくいけど。

小林 愛情はありつつも、含羞があった。

酒井 さっき、舞台はお客さんが目の前にいるから苦手とおっしゃってましたが、今年の秋には舞台のお仕事が控えているんですよね(『阿修羅のごとく』)。あえて舞台上から顔が見えるところに座って、「がんばれ」って口パクしてみようかしら(笑)。

小林 なんと……。そしたら、私も開き直って酒井さんに目線をバチバチ送ってやる(笑)。

酒井 舞台上と客席で、互いに密かにテレ合いましょう……(笑)。舞台、楽しみにしています!

(終)


小林聡美(こばやし・さとみ)
1965年生まれ。東京都出身。1982年『転校生』で初主演、その後『かもめ食堂』『めがね』『すいか』など数多くの映画やドラマに出演する一方、『ワタシは最高にツイている』『聡乃学習』『ていだん』など著書多数。2022年公開の『ツユクサ』では、大人の人生にそっと語りかける映画の主人公を演じている。

文春文庫
無恥の恥
酒井順子

定価:825円(税込)発売日:2022年07月06日

電子書籍
無恥の恥
酒井順子

発売日:2022年07月06日

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