- 2022.08.25
- インタビュー・対談
俺たちは、友人でも恋人でもない。“相棒”(バディ)です――『紅だ!』(桜庭一樹)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
男女の探偵コンビはいかにして“相棒”になるのか!?
「紅(くれない)だぁーッ!」
と、雄叫びをあげるのが日課(?)の私立探偵・真田紅(30歳)。女子テコンドーの元五輪代表選手でもある武闘派の紅は、ダークウェブで命を狙われている謎の少女を助けたことがきっかけで、ボディガードの依頼を受けることに。
いっぽう同じ頃、探偵事務所の同僚・黒川橡(つるばみ)(28歳)は、かつての職場の先輩である公安刑事から偽札事件の調査を依頼されていた。やがて偽札事件と紅が保護する少女との関わりが浮上して――。
「『少女を埋める』と『キメラ』という、少し自伝的な要素のある、重たい中編と中編の間に執筆したので、“エンタメを書きたい!”気持ちが身体の中に溜まっていたのかも……。アクションシーンのある楽しいミステリを無性に書きたくなったんです」
こう桜庭さんが語るように、本書は新大久保を舞台に“相棒”探偵が大活躍する、痛快な推理活劇となった。
紅と橡の働く「道明寺探偵屋」は、もともと道明寺葉(よう)という女性がオーナーだったところ、一年前に彼女が亡くなり、現在はふたりが共同経営者兼探偵を務めているという設定。
「女性どうしの連帯を描く“シスターフッド”ものや、ホームズとワトソンみたいな男性ふたりのコンビも好きですけど、男性と女性とを相棒にしたらどんな関係性になるのか興味がありました。そこで、ひとりは武闘派の女性、もうひとりはめっぽう賢い頭脳派だけれどいざというときテンパってしまう男性という、対照的な男女の主人公を考えたわけです」
実はこの紅と橡、恩人である道明寺葉を亡くした際に行き違いがあり、一年間、互いに報告書を書くだけで仕事は別々。電話さえしていなかった。
物語の中盤、各々の担当する事件が背後で繋がっているらしいと感づいた橡が、勇気を振り絞って、
「――じつはな。どうやら俺たち、久々の共闘になりそうなんだ。紅」
と、電話するシーンが印象的だが、
「『大人になる』っていつくらいのことなのかなと考えるんです。18歳や20歳を成人と言うけれど、本当は20代後半にさしかかって、職場に後輩が入ってきたり、独り立ちを迫られたりして、ようやく大人の自覚って生まれるんじゃないかなと。紅も橡も、ちょうどその時期に親のように頼りにしていた経営者の先輩がいなくなってしまって、ふたりで大人にならないといけなくなったのです」
かたや少女のボディガード。かたや全国のATMで多発する偽札事件の解明――。依頼に応え、また、自らの職業倫理をまっとうするため、一年ぶりに力を合わせる紅と橡は、やがて互いを“相棒”と認識するようになる。それは、恋人とも友達とも単なる同僚とも違う、いわく言いがたい関係だ。
「人に説明しづらい関係って意外とたくさんありますよね。芸人さんのコンビの相方とか、編集者と作家の関係などもちょっと特殊で、“相棒”と似ているところがあるかもしれません。普通に世の中に存在するのに、きちんと名付けられていない関係性を、小説の形で描いてみたかったんです」
さくらばかずき 一九七一年生まれ。二〇〇七年『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、〇八年『私の男』で直木賞。近著に『東京ディストピア日記』『少女を埋める』等。
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