“病院経営”という題材だからこそかけた主人公
元警察官であり、現在は危機管理コンサルティングに従事するかたわら、コメンテーターとしても活躍中の濱嘉之さん。累計120万部を突破した「公安部」シリーズでもお馴染みの著者が最新作で描いたのは、大病院の経営者一族だ。
「もともとの原稿は、15年以上前に、半年くらいかけて書いたものでした。ちょうど『警視庁情報官』を書いたのと同じ時期です。警察官を辞めた後、医療安全推進委員会にオブザーバーとして入ってくれないかという話があり、10年間ほど毎月、東京都内の有数の病院の院長や理事長の方にお会いする機会があったんです。そこで病院内部のことや経営のことなど、いろんな話を伺いました。危機管理という立場から、医療ミスにも関わる機会も増えました。それに、私の親族、知人の中にも医者が多いんです。そうやって知ったことを忘れないうちに書き留めていたら、いつの間にか小説になっていました」
病院を一代で日本トップクラスの総合病院にした外科医の池田利宗には、6人の子どもがいた。優秀な兄弟に囲まれながら落ちこぼれの次男として育った利雄は、海外で最先端の外科手術を会得し帰国すると、名医として一気に名を上げる。だが、彼が本当の手腕を発揮したのは病院経営だった。
「『病院ってそんなに儲かるの?』と思うかもしれませんが、それが警察と病院の全く違うところです。警察官は公務員ですからいくら仕事をしても給料は同じ。つまりお金じゃないんですね。出世争いはありますが、本部長や署長になっても数年でまた変わりますから。でも病院経営は、上手くやればやるほど自分の組織を大きくできる。普通の会社の経営ともまた違います。私は危機管理という観点から、何かあった時にどうやったら失敗するのか、どう対処するのがいいのか医療関係者を相手に話をしていた立場でしたから、その経験はこの小説にも存分に生きています」
利雄は、時に手段を選ばずに病院とともにグループ企業をも大きくしていく。だが、病院を一緒に支えてきたはずの池田家にはいつしか亀裂が生まれていた。やがて、利雄の能力を認めていた妹・恵理子まで彼から離れ、利雄は兄弟の中で孤立していく。そんな中で利雄を支えていたのは、伯父の宗春や、父の友人である建築家・大久保だった。
「裕福な家族こそ跡目争いがありますし、親の代で事業を大きくしたものの、それを継ぐ能力のある子がいないということもある。そういう問題を抱えて、仲の悪い一族をたくさん見てきましたからね(笑)。建築家の大久保は、シベリア抑留の経験があり、清濁併せのむことのできる人物です。それゆえに、利雄の才能を見抜き、彼を支えたのでしょう」
病院が大きくなっていく中で、利雄はやがて、いびつな独占欲を見せるようになる。そんな彼を、ある罠が待ち受けていた――。
「主人公の利雄はある種のダークヒーローですが、そうやって生き延びていく医者を何人も見てきましたし、“病院経営”という題材だからこそ、このような主人公が書けたと思います」
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