- 2022.12.29
- 文春オンライン
《十津川警部、最終回へ》43年の歴史に幕…俳優・高橋英樹が語った『西村京太郎トラベルミステリー』撮影秘話
「第二文芸」編集部
高橋英樹さんインタビュー
出典 : #文春オンライン
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
ベテラン俳優・高橋英樹が、ベストセラー作家「西村京太郎」との旅を終える!
43年続いた「西村京太郎トラベルミステリー」(テレビ朝日系列)が12月29日の放送でファイナルを迎える。長らく十津川警部役を務めてきた高橋英樹に、俳優人生と、西村京太郎への思いを聞いた。
◆◆◆
取材場所となる行きつけのラウンジにさっそうと現れた高橋英樹は、西村京太郎の絶筆となる『SLやまぐち号殺人事件』を手にしていた。
「西村先生の最新刊、読みましたよ。最後の作品でありながら、これだけの壮大なトリック。さすがですね。とても面白かったんですが、これは2時間のスペシャルドラマでは、実現できないなぁ」
この言葉には2つの意味があった。
「白昼堂々と、SLやまぐち号の5号車が車両ごと消される。乗客も全員行方不明。十津川警部は、この謎を見事に解きますが、5号車が一瞬で消えるテレビドラマを製作するとなったら、予算オーバーになりますね(笑)。映画くらいの予算があったら、ぜひ演じてみたいです。そして、理由はもう一つ。今年12月29日に放送される『西村京太郎トラベルミステリー73』が、最後の放送になるんです。毎回、最後になっても構わないように、と全力で撮影してきましたから、悔いはありません」
悔いはない――。堂々と語る高橋の俳優人生は、逆境と、それを乗り越える努力の連続だった。
「日活ニューフェイス」に17歳で合格
高校時代、最寄り駅の映画館に通い詰めるほど映画好きだった高橋は、たった一人で「映画倶楽部」を立ち上げる。部員はずっと一人だった。それでも大学ノートに、映画評を書き溜めた青年は、昭和36年、日活ニューフェイス5期生に応募し、見事に合格した。17歳だった。
「運が良かったんですよね。当時、人気絶頂だった石原裕次郎さんがスキーで骨折をなさった。また、赤木圭一郎さんが自動車事故でお亡くなりになられた。主演をはる方が2人も不在になっていた。赤木さんは4期生でしたから、ご健在でしたら、私が合格した『5期生』の募集はなかったかもしれません」
初の主演作『激流に生きる男』がヒット。トップスターへと駆け上がるが、このとき、「ある弱点」が、高橋の武器となった。
弱点を武器に任侠映画、時代劇へ
「あるとき、日活の首脳陣が集まって、『高橋英樹の今後の売り方をどうするんだ』と、話しあったらしいんです。『石原裕次郎や小林旭と、高橋はちょっと違うぞ』と。当時のプロフィールには、『身長』『体重』にくわえて、『股下』が記されていたんですよ。それを見た幹部の方が、『そうだ、あいつは足が短い。だったら着物を着せて隠すしかないな』といって、任侠映画に出演することになりました。あだ名は『ダックスフント』でしたけれどね(笑)」
任侠映画で評価を高めた高橋は、NHK大河ドラマ『竜馬がゆく』において、武市半平太役で時代劇、初出演を果たす。その後、『桃太郎侍』『遠山の金さん』『三匹が斬る!』に主演し、スター街道を突き進んだ。
「時代劇に出演するようになって、着物での所作を身に着けるために、日本舞踊の稽古に通い始めました。その時の師匠が、日本芸術院会員でもあった二代目尾上松緑さん。松緑師匠に言われたことを今でも覚えています。『名優に声のいいやつはいないんだよ。声にちょっと自信のない人のほうが名優になっているんだ。朗々と響き渡る声なんてなくてもいい。たとえしゃがれ声だったとしても、それを活かして、人の心の琴線に触れる演技をできるかどうかが大切なんだ。とにかく訓練! 一生、稽古だよ』、と」
俳優という仕事にゴールはない。常に稽古、常に勉強――。高橋はこの教えを守り続けてきた。だからこそ、四半世紀以上にわたって、役者として活躍できているのだろう。
そんな中、高橋は、テレビのバラエティ番組に出演。周囲を驚かせた。
バラエティ番組にあった「学び」
「当時、小学生だった娘(高橋真麻)に、『パパは、俳優だよね。でも私の友達は誰も知らないんだよ。SMAPと一緒にテレビに出られない人は芸能人じゃないよ』って言われたんです。そりゃそうですよ、子供は時代劇なんて見ませんからね(笑)。それなら、これまで縁がなかったけれど、バラエティに挑戦してみようか!と。有難いことに、SMAPの番組に出演させてもらえた。ここでも『学び』がありました。出演者たちは、司会者に振られたら、すぐさま当意即妙の答えを返さなきゃいけない。さんまさんに何かを振られて、上手く返せなかったら、2度とチャンスをもらえないんですからね(笑)。この『即時性』は、芝居をするうえで、とても勉強になりました。このときも、松緑師匠の言葉が胸に蘇りました。『すべてが勉強なんだ』と」
俳優として成長を続ける高橋は、「2時間ドラマ」も牽引。代表する長寿シリーズが「西村京太郎トラベルミステリー」だ。2000年のシリーズ第34作から、十津川警部役を演じてきた。そして、高橋が演じる十津川は、いつも現場を走り回っている。
「石原裕次郎さんは、デスクに座って、部下の電話を受けて、『捕まえてこい』と指示をして、最後は『ああ、ごくろうさん』と。これがかっこ良かった。私も、もうそのくらいの年齢ですが、『亀さん(亀井刑事)、行こう!』と、コートを持って、事件現場へ走っているんですよね」
「西村京太郎トラベルミステリー」は、観光案内も大事な要素
ドラマ「西村京太郎トラベルミステリー」の魅力の一つは、作品の舞台を、高橋さんと亀井刑事役の高田純次さんが、駆けまわることにある。名所、旧跡、レストランを二人が巡るのだ。
「犯人を捕まえるのが小説、ドラマの本筋なのですが、観光案内も大事な要素ですよね。その地方のいい場所、いい旅館、人々の温かさを余すことなく伝える。ご覧になった方に、『この舞台に行ってみたいな』と思わせるドラマを目指していました。このシリーズの村川透監督は、『ここは観光したくなる』という場所も徹底的に撮影していましたからね。『犯人が観光地に行くはずがない』なんて、言わないでくださいね(笑)」
原作者・西村京太郎との思い出
原作者である西村京太郎は今年3月に逝去。著作が700冊に迫り、累計部数が2億部を超える大ベストセラー作家だった。訃報に接したとき、高橋は、悲しみに打ちひしがれたという。
「西村さんの新作が読めない、というのは寂しいです。思い出すのは、あたたかい笑顔ですね。原作者にお会いするときは、やはり緊張するんです。ところが、初めてお会いした時も、とても優しく微笑んでくださって。その後もずっとそうでした。私たちが作るドラマも、楽しんでくださっていたようです。お住まいだった、湯河原の名産品をよく送っていただきました。干物やミカンもとても美味しくてね。2012年の西村先生の著作500冊記念のパーティーに伺ったときの笑顔も、素敵でしたね。
『SLやまぐち号殺人事件』が最後の小説になってしまったことが寂しいですね。5号車を乗客ごと消してしまうトリックが、壮大過ぎて、予算オーバーでドラマ化できない、なんて言いましたけれど、今作は、小説として本当に面白かった。高杉晋作にあてた恋文が、事件の謎を解く手掛かりになるんですが、西村先生の歴史観が素敵なんです。高杉晋作の描きかたも、『西村先生』らしい。私は西村先生の小説を読むときは、ついつい、『これは映像化したい』『でも、予算はどうだろう』なんてハラハラしながら読みますが、みなさんは、違った意味で、ドキドキしながら楽しんでもらいたいですね」
俳優・高橋英樹は12月29日放送の最新作『西村京太郎トラベルミステリー・ファイナル 十津川警部のレクイエム』で、長い旅を終える。
「この夏、静岡県の某所で撮影していたんですが、言葉に出来ないほど暑くてね。ただ、嬉しいことに、連日、美しい青空が広がっていて、素晴らしい景色を映像に収められたと自負しています。長いあいだ、俳優をしていましたが、『奇跡のロケ』って、こういうことを言うんだろうな、と。私やスタッフが過酷な環境に身を置いたからこその『映像美』。ぜひ期待してもらいたいです。俳優は楽をしていたら、良い画はとれないんです。
最後の十津川警部になりますが、最新作をどうぞ楽しんでもらいたいと思います。2時間で100%犯人を捕まえることを約束します。検挙率100%ですから(笑)。絶景のなかで、人間が持っている善と悪の感情が描かれ、犯人の悲しさがまじりあった十津川警部シリーズは、私にとってエンタメの原点でした」
高橋英樹(たかはし・ひでき)/1944年2月10日生まれ。1961年デビュー。『伊豆の踊り子』『男の紋章シリーズ』など、映画黄金時代の作品に多数出演。テレビにおいても『桃太郎侍』『三匹が斬る!』など代表作も多く、時代劇スターの地位を確立。現在はドラマの他、バラエティ番組などでも幅広い活躍を続けている。
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