準備期間を合わせ、足掛け6年。古代メソポタミア文明を生んだ湿地帯を巡る旅が、ついに1冊の本にまとまった。
「イラクという国も、その奥にある湿地帯も謎に満ちていて、いわば二重のカオス。出発前には思いもよらない出来事ばかり起こりました」
世界中の辺境を探検してきた高野さんでも、イラクを訪れたのは2018年の取材が初めて。湿地帯探検のパートナーとして探し求めた相棒こそが、旅の鍵を握っていた。「オール讀物」連載時に精密なイラストを毎回描いてくれた山田高司“隊長”である。
「自然に長けた人に同行してもらいたくて、『世界で一番川を旅した男』の異名を持つ山田隊長に声をかけました。出発前にYouTubeにあった湿地帯の動画を彼に見せたら、『おお、ええ舟やな。ええ舟大工がおるんやろうな』って言うんです。山田隊長は高知の四万十出身なんですが、川と生活が密着した四万十には、今も舟大工がいる。だからイラクの湿地帯にも舟大工がいるはずだと。僕にはまったく出てこない発想で、探検の指針が生まれた瞬間でした」
4000年以上前から作られていた三日月形の舟・タラーデを現代に蘇らせ、湿地帯を旅する。この目標を掲げた高野さん一行は、ついにイラクへ――。想定を超えたトラブルに次々見舞われるのだが、探検の行方は本書を読んでのお楽しみだ。
「これまで、誰も行かないところを取材し、書いてきました。今回はイラクを通して“文明”を捉えることができて、今までにない1冊になりましたね」
大きなトラブルの1つ、新型コロナの影響で渡航できなかった期間に得た知見も、旅に重要な転換点を与えた。
「イラクに行けず、日本にいる間、ものすごく色々なことを調べて考えました。その過程で知ったのが、湿地帯に由来すると思われる謎のマーシュアラブ布。日本でも買えますが、実は詳細がわかっていません。こうした民芸品は、とうの昔にヨーロッパによって収集、整理し尽くされているはずなんです。なのに、こんなにも個性的な刺繍布が、いつ、誰によって作られたのか未だ不明だなんて、僕には信じられませんでした」
予期せぬ発見が次々に飛び出す湿地帯を通して、世界の新たな側面が見えてくる。
「イラクについては治安に関する報道ばかりが目立ち、現地に暮らす人々の生活は知られていません。砂漠地帯の印象が強いこの国で、鯉の円盤焼きや水牛の乳でできたクリームなど、湿地帯由来の料理が愛されていることにも驚かれるかもしれませんね。この本を通して、みなさんが知らないイラクの姿を楽しんでもらえれば嬉しいです」
たかのひでゆき 1966年東京都生まれ。ノンフィクション作家。ポリシーは「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」。他の著書に『辺境メシ』など。
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