『孤狼の血』、『盤上の向日葵』など重厚なミステリーを書いてきた柚月裕子さんの最新作は、自身の生まれ故郷でもある岩手を舞台にした初めての家族小説だ。
岩手県盛岡市にある、南部鉄器工房『清嘉(きよか)』で働く小原悟。親方である父の孝雄に、職人として一目置いてはいるが仕事一筋で家族を後回しにしてきたことへの不信感もあり、父との距離感に悩み、どこかぎくしゃくとした暮らしを送っていた。
「舞台を岩手に決めた時、私も愛用している南部鉄器が浮かんだんです。工房の取材の際、職人さんの作業風景にとても感銘を受けまして、ぜひ小説で描きたいと思いました。そこで親方で寡黙な父と息子の家族の物語はどうだろうと考えました」
悟はある日、父の孝雄が突然、補導委託の引受を申し出たことを知る。
「補導委託とは、問題を起こした少年に対し、家庭裁判所が最終的な処分を決める前に、民間の方や施設に一定期間預かっていただき、少年に仕事や通学をさせながら、生活の指導や観察を委ねる制度です。少年の生活環境を変えることで、更生の道を見つけるんです。家庭裁判所調査官補の成長を描いた『あしたの君へ』の執筆取材時に制度の存在を知り、いつかこれを題材に書きたいと機会を窺っていました。先に浮かんだ親子の話と合わせることで物語の幅が広がるのではと思ったんです」
『清嘉』で預かることになったのは、進学校に通うほど優秀で、弁護士の父と専業主婦の母のもとで何不自由ない生活を送っていた春斗(はると)という少年だった。しかし彼は、ある罪を犯し高校も退学、今回補導委託の措置が取られたのだった。
悟は、補導委託の引受に対し納得がいかず、その気持ちを父にぶつけられないまま春斗を迎えることになる。しかし共に工房で働くことで、悟の心にも少しずつ変化が訪れて……。
「優等生の春斗がなぜ問題を起こしたのか、彼が抱えているものとは何なのか、悟はその心の内を探りながら、自らの心とも向き合います。実はふたりとも、親との関係に素直に向き合えない歯痒さを感じている似たもの同士なんです。親子って身近であるが故に、お互いに言いたいことが言えないし、伝わらないことが多い関係なんですよね。しかし言葉にしないと分かり合えないことがある。ほんの少しのことで変化できるはずなんです。そのきっかけとは何か、私なりに考えた答えを作品に込めています。本を閉じた時にそれを感じ取って頂けたら嬉しいです」
ゆづきゆうこ 1968年岩手県生まれ。2008年にデビュー。13年『検事の本懐』で大藪春彦賞、16年『孤狼の血』で日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)。
-
『皇后は闘うことにした』林真理子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/29~2024/12/06 賞品 『皇后は闘うことにした』林真理子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。
提携メディア