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メンバー脱退の裏で何が起きていたのか…『SMAP×SMAP』放送作家・鈴木おさむによる「覚悟の一冊!」

メンバー脱退の裏で何が起きていたのか…『SMAP×SMAP』放送作家・鈴木おさむによる「覚悟の一冊!」

鈴木 おさむ

『もう明日が待っている』#1

出典 : #文春オンライン
ジャンル : #小説

 1996年にスタートした「SMAP×SMAP」(フジテレビ系)に、放送作家として伴走してきた鈴木おさむ氏。「新しい地図」の3人によるネット番組に出演した際に、稲垣吾郎さんが「同じメンバーみたいな感じだった」とふりかえるほどSMAPと長い時間を共に過ごし、深い信頼関係を築いてきた。このたび上梓した新刊『もう明日が待っている』(文藝春秋)では、国民的グループの知られざる物語が描かれている。

 メンバーの脱退、まさかの結婚、誰にも言えなかった苦悩と闘い。トップアイドルとして沢山の夢を与えてきた彼らの全てが、たった一夜の「放送」で壊れていった。ここでは特別に本書を一部抜粋して紹介する。1996年、グループの人気が高まるなかで突然、メンバーの脱退が発表された。その裏側で何が起きていたのか。(全2回の1回目/続きを読む)

鈴木おさむ氏は3月31日で放送作家を引退すると表明 ©文藝春秋

◆◆◆

タクヤとの出会い

 1994年12月。

 放送作家としてAMのラジオ局で修業を積んでいた僕は、大人たちに認められたくてがむしゃらに食らいついていった結果、ラジオ局で沢山の仕事をもらえるようになっていた。

 そんな僕に、FM局での仕事のオファーがきた。初めてのFM番組のレギュラーの仕事だ。

 それは、あのアイドルの仕事。ドラマでも人気が出始めていた、6人の中の1人のメンバーの番組を作るという仕事だった。

 千鳥ヶ淵の横にあるビルの一番上のスタジオ。

 スタジオに入ると、既に彼は到着していて、窓枠に肘をかけて立ちながら台本を読んでいた。

 窓から差し込む光が、彼を囲んでいて。

 彼は「こんちは」と言って名前を名乗った。

 僕と同じ年。1972年生まれ。同学年。

 僕が同じ年だと知ると、彼は「タクヤって呼んで」と言った。

アイドル像を破壊していった

 アイドルだからこそナメられたらいけないと勝手に思い込んでいた自分は、最初にかましてやらなきゃ! とイタい使命感のようなものを抱いていた。だから初対面の彼に向かって、いきなり、彼らが出演していたとあるバラエティー番組のことを話し、「俺、あの番組嫌いなんだよね」と言った。

 すると、タクヤは笑いながら。

「俺も」

 そう言って手を差し出してきた。

 僕はその手を強く握った。

 22歳同士。同学年のタクヤのラジオは「ワッツアップ」という挨拶で始まり終わる、まさにアイドル像を破壊していく番組だった。

 彼と同学年の人が話すようなことはすべて話す番組にしたかったし、彼もそれに乗っかり、まんまと飛び越えていった。

 アイドルが恋愛の話なんてしないのが当たり前だった時代に、恋愛経験から、付き合っていた彼女の話まで、「自然」に、やんちゃに話した。

 ラジオを作っていく中で、彼のモノマネをする能力、特に格好いい人の格好よさをモノマネする能力の高さに痺れ、キャラクターを作ってコントのような企画も考えた。

 彼らのファンだけではなく、自分らと同世代の男が聞いても、共感したり笑ったり出来る内容にしたいと思って、全力で向き合った。

 普通のマネージャーなら、僕のそういう番組構成に対して絶対怒るところだが、イイジマサンは僕のやることをおもしろがってくれた。

 一度だけ、彼らの発売した新曲に引っかけて、ド下ネタの企画を作り、放送したことがあった。イイジマサンは、僕に電話してきて、めちゃくちゃ怒った。めちゃくちゃキレた。

 キレる中で「おもしろいのは分かるよ! でも、さすがにあれはダメ」と言った。

 怒られる中でも「おもしろい」と認めてくれていることが嬉しかった。

 イイジマサンは、弱冠22歳の小僧をおもしろがってくれたし、僕はこの人に認められたいと、もっと頑張れるようになった。

『もう明日が待っている』(鈴木おさむ著、文藝春秋)

逃げずに、歌った6人

 1995年1月17日。

 阪神・淡路大震災が起きた。

 1月19日。

 ラジオの収録にイイジマサンが来て、ラジオ終わりで、タクヤと2人で何か話していた。その様子から、とても大切なことを話している空気が伝わった。

 翌日、金曜20時の人気音楽番組に彼ら6人は出演する予定で、そこで歌う曲は、人生はなんとかなるから、たぶんオーライだよ! というメッセージを格好いいブラックミュージック的音楽に乗せた新曲になるはずだった。

 イイジマサンは僕に、翌日の音楽番組で歌うのをその新曲ではない曲にしたことを教えてくれた。

 それを聞いて。見なきゃいけない。見届けなきゃいけないという気になった。

 1月20日。

 20時に番組が始まると、彼ら6人が出てきた。

 黒いスーツに身を包んで、阪神・淡路大震災の被災者に向けた言葉を伝えた。

 彼らは歌った。当初歌う予定だった新曲ではなく。

 どんな時もくじけずにがんばりましょうと。

 本気で本音で伝えようと歌い踊る6人。

 アイドルだったら、こういう事態には、生放送でコメントすることすら避けたいところだ。

 小さなミスでアイドルとしての人生が終わるから。

 だが、彼らは、日本のピンチに向き合った。逃げずに、歌った。

 この番組での彼らの歌唱は、多くの人を勇気づけた。

 僕は番組を見ながら、彼ら6人のステージがさらに大きく変動していく気がした。

 自分の心臓の鼓動が速くなり、あることを思った。

 もしかしたら、彼らが本気で新しい時代を作るのかもしれない。

 そして。

 この年の夏が過ぎたころに。ローラースケートを履いて日本中にブームを起こした彼らは。

 グループを卒業……解散した。

 1996年。6人はおもしろくて格好いい今までにない「アイドル」として、人気はかなり上がっていた。

 歌もヒットを連発し、ドラマでも人気になり、そしてバラエティー番組でも活躍を見せる。

 全てのピースが揃っていた。

 中学生・高校生を過ぎたら卒業するのがアイドルファンだったが、彼ら6人は彼らより年上の女性や、お母さん世代までをも魅了していった。

 大人になってもアイドルのファンになることは恥ずかしくないという新しいムーブメントを作り出していた。

前代未聞のテレビ番組

 2月。

 ベッドの横に置いてあった携帯が鳴っているので、布団から手を出して電話に出ると、イイジマサンからだった。

「オサム、一個、やってほしい番組があって。テレビなんだけど」

 23歳の僕はラジオのレギュラーは多かったけど、テレビのレギュラー番組は2本ほどしかなかった。

「今度、6人の新番組を立ち上げることになったの」

 この春から始まる新番組に作家として参加してほしいということだった。

「時間がね、月曜の夜10時なの」

 6人の新番組は、河田町にある人気テレビ局で作られるタレント主体の冠番組で、しかも放送時間が月曜22時。

 時間帯を聞いてドキドキした。

 1996年春までの時点で、テレビのGP帯、ゴールデン・プライムタイムと言われる19時~23時の一番輝かしい時間帯で、アイドルがメインとなる番組が制作されたことはなかったからだ。

 GP帯で作られる番組のメイン出演者は、人気芸人、人気司会者が務めるもので、アイドルがいくら人気があるからといって、メインとして出演することはなかった。

 だからこそ彼ら6人で月曜22時という時間でバラエティー番組を作ることは、局にとっても大きな賭け。そしてなにより、彼らにとっても成功したら時代を変えることになる。

 イイジマサンは言った。

「絶対ヒットさせたいの。頼むね」

 数日後、イイジマサンが僕を番組のプロデューサーの所に連れて行ってくれた。プロデューサーは荒木さんといって、彼ら6人が出演するバラエティー番組をずっと作ってきた人だ。荒木さんにとっても大きな勝負になる。寝ずに書いた数十個の企画案を出すと、「いいね! おもしろいね」と、とても喜んでくれた。

 そして、「この番組はね、スキーがスノボになって、ディスコがクラブになったようにね、彼ら6人がやることで、今までやってきたことでも、器が変わって味付けが変わって、新しいものに見えると思うんだ」と説明してくれた。

 その説明が僕には非常に伝わりやすかった。

 斬新すぎる企画は伝わりにくくなる。彼ら6人がやるからこそ、格好良くておもしろく見えることを考えればよいのだと。

 バラエティーというものが6人の器で新しい料理に見えることが大事なんだと。

 番組は3つの要素で構成されると聞いた。

 女優さんをゲストに、メンバーが料理を作るコーナー。

 コント企画のコーナー。

 CGを多用した歌のコーナー。

 料理のコーナーは、メンバーの「モリクン」が料理上手だったことから、企画されたものだった。

6人揃った時のオーラ

 23歳の僕は会議に出ても、一番端の席に座らされたが、タクヤとラジオをやってきたからこそ、「負けたくない」と思った。

 自分たちと同じ年の男性が見ても、おもしろいと言える番組にしたいと思い、意見を伝えて台本を書いたし、ラジオの時に直接タクヤに企画を投げて「エロいペットが女性を口説くコントとか、おもしろくね?」と話し合って、台本にした。

 3月。代官山にあるスタジオで、その番組のビジュアル撮影が行われた。

 金色に塗られた6人の顔がアップで写っている。勢いを感じた。

 撮影が終わって、スタッフとメンバーと顔合わせを行うことになった。

 スタジオにある会議室で、番組のプロデューサー、ディレクター、作家とメンバー6人がテーブルを囲んで挨拶する。

 6人全員に生で会うのは初めてだった。

 6人揃った時のオーラ。だが、その中にカジュアルさも持ち合わせていた。

 リーダーが「よろしくお願いします」と頭を下げる姿を見て、これまでのアイドルっぽくなさが、一気に好きになった。

 アイドルがメインのバラエティー番組をGP帯で作るという、誰も挑戦したことのない未来に向けての話し合いは、終始笑顔。みな、期待と希望を語った。

全員笑顔だった空気が一変

 1時間ほどの顔合わせが終わり、僕らスタッフは帰ろうと、出口の方に行った。

 その時だった。

 イイジマサンが、顔をこわばらせて、その場にいた現場マネージャーに声を荒らげて言った。

「メンバー全員、地下の会議室に集めて――」

 さっきまでの全員笑顔だった空気が一瞬にして変わった。

 イイジマサンは、番組スタッフには何があったか説明することはなかった。ただ、急に慌てた空気がその場を動かし始めて。

 メンバーが続々と地下の会議室に向かう。

 イイジマサンのその表情で、何かが起きていることだけは分かった。

 メンバーが急遽会議室に入っていったので、スタッフチームは自分たちだけ帰るわけにはいかないと、近くで待つことになった。

 30分経ち、1時間が過ぎても、会議室からメンバーが出てくることはなく。

 僕はスタッフと「何話してるんでしょうね」と想像してみるが、見当もつかない。

 途中で、スタッフの1人が「もう帰りましょうか」と言ってくれたので、帰ることになった。

 帰る間際に会議室から漏れ聞こえた言葉から、嫌な予感だけがした。

タクヤが語ったこと

 その翌日。ラジオ収録があり、タクヤに会った。

 僕が我慢できず、タクヤに「昨日、何話してたの? あんなに長く」と聞くと。

 タクヤは「あぁ~」と言って、軽い感じで続けた。

「グループを辞めたいって言ったメンバーが1人いるんだよ」

 タクヤらしく、さらりと言ったが。

 わざとそういうトーンで言ってくれているのが分かった。

 春からの新番組のビジュアル撮影、スタッフとの顔合わせをした日に、グループを脱退したいメンバーがいたというとんでもない事実。

 僕は体の震えをおさえて、あえて平静を装ったが、やっぱり我慢できなくて聞いてしまった。

「誰が辞めるって言ってるの?」

 そう聞くと、タクヤは、僕の目を見て言った。

「モリ」

 また、さらりと言った。

 わざと。

 彼らしく。

トップアイドルが異例の結婚報告…決断を後押しした「あるメンバーの一言」《『SMAP×SMAP』放送作家・鈴木おさむが描く》〉へ続く

単行本
もう明日が待っている
鈴木おさむ

定価:1,980円(税込)発売日:2024年03月27日

電子書籍
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鈴木おさむ

発売日:2024年03月27日

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