経済番組「ブレイクスルー」(テレビ東京系、毎週土曜日午前10時30分)のメインキャスターを務める小説家の真山仁さんは今年デビュー20周年を迎える。『ハゲタカ』シリーズは累計270万部を突破し、『ロッキード』は本格的ノンフィクションとしては異例のロングセラーとなっている。『疑う力』を上梓したばかりの真山さんが、作家としての原点を明かす。
自分では当たり前と思っていることにこそ、才能が隠されています。たとえば、歌が上手な人や足が速い人に「なんで?」と聞いたら、その人たちは「誰でもできるでしょ」と答えるでしょう。
私の場合、残念なことにそれは「他の人たちに見えているものとは違うところが見える」という才能でした。多感な小学校高学年の頃、なぜ自分は生まれてきたのか、何に向いているのかを考えるようになって、そのことに気づきました。
たとえば、サッカーのとき。他の子がボールを追いかけるなか、当時、細くて小柄だった私は一人離れた場所にいました。ボールがこちらに飛んでくると、そのまま一人でゴールに向かうんです。「ボールは1個しかないのに、なんで全員で追いかけるわけ?」と考える子だったんです。
「なんで、わかるの?」友人の言葉で自分の才能に気づいた
みんなと同じ方向を向かないというのは、学級会でもそうでした。
私は妙に正義感が強かったんです。先生から「あなたの正義感は凶器だ。正しいと思ったら、みんなをなぎたおしてでも、言うことを聞かせようとする。それはよくないことだ」と言われて、黙って話を聞く訓練をしました。
学級会では最初の10分は静かに聞いています。先生の意を汲んだ優等生の提案に、他のみんながなんとなく同意して決まりそうなところで、私は違和感を覚えたら、「こういうときにどうするのか」とみんなが見ていない点を指摘したり、賛成者に「この決定によってどうなるかがわかって賛成しているのか」と問いただしていました。ただし、文句を言うだけではなく、こうしたほうがいいという提案もします。やがて私の提案を支持する人が増えて、逆転して決着する。そんなことばかりやっていましたね。
自分としては当たり前のことをしているだけなんですが、友達から「なんで、あんなことまでわかるの? 言われるまで考えもしなかった」と言われた。それで自分の才能に気づいたんです。
この話を講演会ですると、「そういう子供は嫌われたでしょう」という反応が返ってきます。でも、そんなことはありませんでした。あとで「ごめんな。お前のことを責めたかったんじゃなくて、助けたんやで」とフォローしていました。大阪では、「一人だけまた綺麗事を言って」というふうにはなりません。終わりよければすべてよしです。
小説なら無関心な人にも届けられる
みんなが見えていないところを伝えて別の可能背や選択肢を示す――この能力をどう活かしていけばよいか、どのように伸ばしていこうかと考えていた時期に、ミステリーを読み始め、なかでも「アルセーヌ・ルパン」シリーズや、アガサ・クリスティーの作品に夢中になりました。
そして、小説でなら自分の才能を活かせるかもしれないと思ったんです。自分が社会に対して抱く疑問や、多様な視点を小説に織り込めば、多くの人に伝えられるんじゃないか。
難しい話は誰も聞きません。でも、エンタメ小説なら、無関心な人にも届くんじゃないか。私自身の体験ですが、ルパンを読んで、全く関心のなかったガス灯や辻馬車、舞台となっている19世紀のフランスの貴族の生活を知りました。ルパンは泥棒なのに正義の味方という設定に、「警察は常に善なのか」と世の中の常識を疑うようになりました。
他の人と異なる視点や価値観で物事を見るためには、「正しいことを疑う」という姿勢が必要です。『疑う力』でも書きましたが、この姿勢は訓練すれば誰でも身につけられるものです。
小説を執筆するときには、膨大な取材を行います。それを知っている人からは、「なんでノンフィクションとして書かないんですか。回りくどいでしょう」と言われることがあります。
しかし、ノンフィクションは、テーマに関心のある人しか読みません。『ロッキード』のようにロングセラーになる作品は異例です。多くの人に届かないと、世の中は変わりません。
私にとって、小説は世の中を変える道具なんです。小説を通じて、社会で起きている様々な現象に対して問題提起をしたり、別の選択肢を提示したり、警鐘を鳴らそうとしています。
その分、文学性に関しては無頓着で、私の小説には家族の情や恋愛が欠けているといわれることもありますが、日本が滅びそうなときにそれを必死で止めることばかり考える小説家がいてもいいじゃないですか。そこは、一人馬鹿みたいに貫くつもりです。
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