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「いかに楽して、やらないか?」世界最前線で開発に挑むエンジニアと、広告業界の異端児が一致して推す“仕事の戦略”

「いかに楽して、やらないか?」世界最前線で開発に挑むエンジニアと、広告業界の異端児が一致して推す“仕事の戦略”

牛尾 剛,三浦 崇宏

牛尾剛×三浦崇宏

出典 : #文春オンライン
ジャンル : #ノンフィクション

 ガチ三流プログラマが超巨大クラウド開発の最前線にいくとどうなるか? そんな状況での学びを凝縮した『世界一流エンジニアの思考法』が話題沸騰中の米マイクロソフトシニアエンジニア・牛尾剛さんと、広告業界の異端児、クリエイティブ・ディレクターの三浦崇宏さんが、仕事の生産性を高める秘訣について語り合った。

 ◆◆◆

「いかに努力しないで勝つか、結果を出すか」

牛尾 はじめまして。三浦さんの『超クリエイティブ』と『言語化力』の著書を読ませていただいて、エンジニアと広告クリエイティブの世界の考え方との共通点や違いなどがすごく興味深かったので、今日は楽しみにしていました。

三浦 お声がけ頂いてありがとうございます。『世界一流エンジニアの思考法』で書かれていた“Be Lazy”(怠惰であれ)の考え方――生産性を上げるために大事なポイントは「いかにやることを減らすか?」にあるなど非常に刺激的で、いろいろお話ししたいと思っていました。

写真:アフロ

牛尾 三浦さんの本を読んで、ひとつ僕との大きな違いは、三浦さんは幼少の頃から結構「できる子」でしたよね?(笑)。僕は本当に何やっても要領が悪くて、勉強も運動もできない子でしたが、僕が40歳くらいになってやっと気付いたようなことを、三浦さんはもう高校の時に実践している。

 印象的なエピソードが、高校のとき柔道の弱小チームにいた三浦さんがものすごい練習量を積んでいる強豪に勝つために、「みんなが知らない技なら防げないだろう」と、総合格闘技の技を学んで、ライバルを次々となぎ倒していった話でした。「努力しないための努力」を徹底的に考え抜いていて、本当すごいと思いました。

三浦 小さい頃からわりと体が大きかったので、自己肯定感はそれなりに高く育ったのかもしれません(笑)。「いかに努力しないで勝つか、結果を出すか」ということは、昔からものすごく考えていて、柔道の試合でも進学校で練習量が少ない中でも絶対に勝ちたかったから、いかに普通の練習をしないで勝つか考えて、工夫したんです。

 いかにやらないかというアプローチは「Be Lazy」の精神とも深く通じる話ですが、その考え方にはアメリカに行ってから出会われたんですよね。

「Be Lazy」の考え方にアメリカで出会う

牛尾 はい、僕はもともと日本の大手SIerにいて、その後は自分で会社を立ち上げコンサルタントとして日本の会社にIT技術導入のお手伝いをしていました。でもずっとプログラマへの夢を諦めきれず、友達に「マイクロソフト向いてるんじゃない?」と勧められて受けたら、最初エバンジェリストとして採用されたんです。

牛尾剛氏

 僕は外資系企業が初めてで様々な衝撃を受けるのですが、念願かなってプログラマとしてのポジションを得て最初に受けた洗礼が「Be Lazy」の考え方でした。渡米後、なんとかして早く成果を出したいと一生懸命頑張って仕事をしていたある日の19時、まあそんな時間は日本なら残業のうちにも入らない時間帯ですよね。

三浦 スタートアップのエンジニアなんて深夜2時、3時までやる人も普通ですからね。

三浦崇宏氏  ©細田忠/文藝春秋

牛尾 でも当時の僕の上司がふらっとやってきて、「ツヨシ、働きすぎないで!」、そして何度も“Be lazy”と言うんです。日本の企業に勤めていて、生まれてこのかた一度も言われたことのない「怠けろや」なんて台詞を、ものすごくハードと聞いていた外資系の大企業で聞くとは思いもよらなかった。

 でも段々わかってきたのが、これは「どれだけ自分が楽をして、インパクトのあることをいかに考えてするか」という企業文化。それは仕事の優先事項を見定め、タスクに時間をとられすぎることなく自分の成長のために「学ぶ時間を確保する」という考えとセットになっている。

「生産性」と聞くと日本人はタスクを沢山早くやることをイメージしがちですが、ここでは物事のインパクトは物量じゃない。むしろ物量は少ない方が良くて、自分も楽だし、そこで最大限の価値を出すことが高く評価されます。

いかに戦わないで勝つかが「戦略」

三浦 この本の中で僕がすごく好きな図があって、「優先順位をつけてフォーカスしよう」と言われると、日本だと一番重要な仕事はこれ、2番目はこれ、間に合えば全部やろうというのに対し、アメリカでは最重要な一個の仕事を死ぬほどやり抜いて、そこできっちり成果を出す。一番重要なイシューにフォーカスしてしっかり解決する。

『世界一流エンジニアの思考法』より/イラスト:docco

 これは僕らの仕事で言うと、「戦略」という言い方しますが、戦略とはすなわち「戦いを略す」、つまりいかに戦わないで勝つかなんですね。戦略と聞くとすぐ「どうやって戦うか」をイメージしがちですが、そうではなく「いかに戦わないか」を考えるかが戦略の本分です。国と国でいうなら、戦争するより前に、国力を大きく見せかけて戦わずして済ます方が一番賢い。

 ビジネスシーンはよく「勝ち負け」で語られがちですが、そもそも戦わず、競わずして成果を出すにはどうすればいいかを考えるところから働き方の変化は始まると思う。だから、牛尾さんのいうフォーカスとは、「やらなくていいことをきちんと見つけろ」ということだと思いました。

牛尾 戦略の意味、すごく面白い指摘ですね。インターナショナルチームでは「やらなくていいこと」を上司が率先して提案してくれます。

 ある時、僕がいろいろ仕事を引き受けすぎてパツパツになっていた時、上司のダミアンに相談したら、「君がいま一番重要だと思うことってなんだ?」と聞かれました。「そうですね。ハッカソンですね」と技術イベントが優先事項であることを伝えたら、「うん、僕もそう思う。じゃあツヨシ、今からそれだけやって他のこと一切やらなくていいから!」と。

 本当にびっくりしましたが、言われてそれだけ頑張った結果、イベントで僕がものすごく評価されてワールドで1位をとれたんです。重要なひとつにしっかりフォーカスしたからこそバリューが出たという話です。

   三浦さんは広告クリエイティブの世界でインパクトのある仕事をいろいろやってこられて、エンジニアの方法論とはまた違うバリューのつくり方をなさっているでしょう?

「顧客の感情を動かす」ことで課題を解決する

三浦 僕らの場合は、最初にその企業が社会に果たしている本質的な役割、価値から考えます。競合との比較ではなく、そもそも、その企業がなぜ社会に必要とされているのかを徹底的に考え抜く。それを一つ定義すると、いま社会が変化している中で、この企業がどう変わるべきかが見えてくる。それをクライアントと共有して、それなら顧客対応、営業戦略、サービスデザインはこう変わるべきだよねと一緒に考えていくんです。

牛尾 企業の本質的な価値を見極めて、望ましい変化の姿を描き出すうえで、三浦さんはものすごい言語化とロジックを積み重ねていますよね。クリエイティブジャンプを起こすための蓄積がある。

 クリエイティブの領域って、明確な正解もガイドもないなかで、どうやって成果を出してるのかすごく興味があります。 

 

三浦 牛尾さんはエンジニアなので、サービスとかプロダクトのシステムそのものを書き替えたり、アップデートしたりする改善ができる強みがあると思います。僕らの場合は、例えば、ある企業がプロダクトを作って、良いもののはずなのに世の中に受け入れられない、みたいな課題を解決するとき、プロダクトの中身を変えることはレアケースで、多くは「顧客の感情を動かす」ことで課題を解決します。

 Aというサービスと、Bというサービスがあって、Aの方がちょっと良くて安かったら普通、Aを選びます。でも、デザインがいいとか、誰かに薦められたとか、なんとなくBの方が好きだなと、感情でモノを選ぶ瞬間も人はけっこうありますよね。

 だから、どうやったら顧客の感情を動かせるかを起点にすることが多いし、それは定量的調査やアンケートなどやり方はいろいろありますが、結局は一人の生活者としての自分をセンサーにして答えを導き出していますね。

牛尾 面白いですね。でも、それってかなり広範囲にわたってセンサーを張らないといけなくて大変じゃないですか?

三浦 そうですね。ただ、広告の世界では常にマルチクライアント、マルチタスクなので、様々な業界のクライアントさんと仕事をしていると自然に世の中の多岐にわたる情報が入ってきます。だから、自分ごと化できるセンサーが沢山立っている状態です。エンジニアの世界ではマルチタスクは良くないと書かれていましたが(笑)。

牛尾 興味深いですね。高度なマルチタスク環境をどうやって生産性に繋げているんですか?

Aの企業の課題がBの企業の答えになったりする

三浦 実はAの企業の課題がまるまるBの企業の答えになったりすることが普通にあるんです。例えば、僕が博報堂にいた頃、日産のディーラーにくるお客様の若い世代をすくいとれていないという課題があったんですが、一方、携帯のドコモは親子割を始めたけれど認知が低いという。なるほどねと思って、僕は日産に対して「車の親子割をやりませんか?」と提案しました。お父さんが買った車って、子供が18歳になったら下取りに出して新しいの買ってあげる家も多いですから、親子割やれば若い層も取り込めるんじゃないかと。

三浦崇宏氏  ©細田忠/文藝春秋

 結果、けっこう売れて成功しました。つまり携帯キャリアにとって課題になっている問題が、そのまま自動車会社にはソリューションになった。マルチタスクで仕事を重ねる事で、結果的に課題解決のスピードが一段早くなることが、僕の場合はあります。

牛尾 エンジニアの世界でも、こっちで使えたアーキテクチャが、見方を変えるとここでも使えた、応用できたというのはありますね。ただ、仮に同時並行でプロジェクトが進む場合も、ここまであるタスクやったらきっちり切り替えてから次へ、といった脳の使い方をしますね。パソコンのCPUが同時処理で作業をしているようにみえても、あれは高速で切り替えているだけで、一度にCPUを専有する作業は1つ、という感覚に近い(笑)。 

 エンジニアにもランクがあって、プリンシパルという上位職の人はワールドクラスで複数のプロジェクトをこなしているので、それによってレバレッジが効いていて視野が広い、というのは感じますね。三浦さんのように横展開する力が非常に強い。

「抽象化」によって複雑なこともシンプルにできる

三浦 「これってこの事例でも使えるよね」「この案件にも応用できるよね」という展開力は結局のところ「抽象化」だと思うんです。事象の本質を抽象化してパターン転用していく力が生産性とも結びついていると思います。

牛尾 「抽象化」はプログラミングの世界でもよくあって、一つ一つゼロからつくっていたらすごく大変なので、プログラム自体を抽象化するテクニックがあります。プログラムの基本的な構造を徹底的に理解してそういう設計にすると、コードの量は少ないけど、ものすごく複雑なことをシンプルにできたりします。理解の深さが、最小の労力で最大のインパクトを生むことにつながるんです。

三浦 広告クリエイティブもプログラミングの仕事も、究極的には、世界に無限に溢れる情報を抽象化していくプロセスそのものの気がします。複雑な世の中の現象をどうやってコードに落としこみ、その仕組みをPCの中でクリエイトするかという世界は、思った以上に僕らと共鳴する部分が多くて面白かったです。

牛尾 本当にそうですね。今日は刺激的なお話をありがとうございました。

『世界一流エンジニアの思考法』(牛尾剛 著)文藝春秋
『超クリエイティブ 「発想」×「実装」で現実を動かす』(三浦崇宏 著)文藝春秋

牛尾剛(うしお・つよし)
1971年、大阪府生まれ。米マイクロソフトAzure Functionsプロダクトチーム シニアソフトウェアエンジニア。シアトル在住。関西大学卒業後、大手SIerでITエンジニアをはじめ、2009年に独立。アジャイル、DevOpsのコンサルタントとして数多くのコンサルティングや講演を手掛けてきた。2015年、米国マイクロソフトに入社。エバンジェリストとしての活躍を経て、2019年より米国本社でAzure Functionsの開発に従事する。著作に『ITエンジニアのゼロから始める英語勉強法』などがある。ソフトウェア開発の最前線での学びを伝えるnoteが人気を博す。

 

三浦崇宏(みうら・たかひろ)
The Breakthrough Company GO 代表、PR/CreativeDirector。2007年博報堂入社、マーケティング・PR・クリエイティブの3領域を経験、TBWA\HAKUHODOを経て2017年独立。「表現をつくるのではなく、現象を起こすのが仕事」が信条。Cannes Lions、PRアワードグランプリ、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSグランプリ / 総務大臣賞など受賞多数。著書『言語化力 言葉にできれば人生は変わる』(SB クリエイティブ)が Amazonのビジネス書ランキングで1位に。『超クリエイティブ 発想 × 実装で現実を動かす』(文藝春秋)。ほか著書は5冊。東京大学、早稲田大学、 筑波大学などで講師実績あり。THE CREATIVE ACADEMY主催。

単行本
世界一流エンジニアの思考法
牛尾剛

定価:1,760円(税込)発売日:2023年10月23日

電子書籍
世界一流エンジニアの思考法
牛尾剛

発売日:2023年10月23日

単行本
超クリエイティブ
「発想」×「実装」で現実を動かす
三浦崇宏

定価:1,650円(税込)発売日:2020年10月29日

電子書籍
超クリエイティブ
「発想」×「実装」で現実を動かす
三浦崇宏

発売日:2020年10月29日

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