学生時代から陸上に打ちこみ、57歳にしてフルマラソンの自己記録を更新した(3時間7分17秒)フィットネスクラブ社長は、池井戸潤の最新長編『俺たちの箱根駅伝』をいかに読んだか――一気に上下巻を読了した直後の熱い気持ちをお届けします!
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「半沢直樹」や「花咲舞が黙ってない」などで有名な池井戸潤さんの『俺たちの箱根駅伝』。私の大好きな「箱根駅伝」を、ここまで、本質的な面白さを追求して表現した作品を知りません。『陸王』でも長距離ランナーの姿を上手く描いていましたが、今回の作品でのランナーの内面も含めた描写は圧巻でした。
ネタバレになるので多くは語りませんが、作品の序盤に「ランナーは、クリエイターじゃなきゃダメだ。現状を疑え。どうすればもっと良くなるか、(中略)常に考えて欲しい」という監督の言葉があります。このセリフで、チームがどう成長していくのか楽しみになり、あっという間に上下巻を読了しました。
池井戸さんは、日本テレビの箱根駅伝担当者から「箱根駅伝完全中継への挑戦」の話を聞いて興味を持ち、箱根駅伝を実際に見て、取材を繰り返すなど、小説化に実に10年かけたそうです。今回の小説は、「寄せ集めの学生連合チーム」と「テレビ局」の2つの視点で同時進行型として物語が進んでいくのですが、それこそが池井戸作品の真骨頂でもあり、「渾身の作品」になっています。
「不可能」と言われた箱根山中生中継を実現した男
小説の中で、実名の方が何名か出てきますが、その一人が私の師匠とも言える田中晃さん(WOWOW会長兼日本車いすバスケットボール連盟会長)です。小説の中で「天才ディレクターと呼ばれた田中晃」と表現されるほど、卓越したリーダーシップと熱意溢れる方です。私が田中さんに初めて会ったのは大学4年生の時で、田中さんと一緒にスポーツ中継に携わりたいという想いで日本テレビに入社しました。
「箱根駅伝」は元々、テレビ東京がスタートとゴール付近のみを生中継していましたが、「箱根駅伝」に魅了された坂田信久プロデューサーと田中さんが、日本テレビでの放送権を獲得し、当時の技術では「不可能」と言われた箱根山中での生中継を実現したのです。“全区間完全生中継”を成功させた1989年の箱根駅伝、大学4年生だった私は、田中さんの演出を後ろから見させて頂き、心が震えた事を、今回の小説が思い出させてくれました。
それにしても、『俺たちの箱根駅伝』というタイトルも素晴らしい――小説の中で、寄せ集めの「学生連合チーム」が、練習や合宿を通して、それぞれの「箱根駅伝への想い」を再確認し、チームとして一丸になっていく様子は、痛快かつ感動的でした。ぜひ多くの方に読んで頂き、一緒に感想を語り合えたら素敵ですね!
岡部智洋(おかべ・ともみ)
アメリカ出身、現在58歳。株式会社ティップネス代表取締役社長。日本テレビ取締役。学生時代は短距離選手。日本テレビでは第80回箱根駅伝で総合演出を担当。「超時短トレーニング」をモットーにしている。https://www.tipness.co.jp/magazine/gymrun/
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