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アマンダ・ゴーマンの『わたしたちの担うもの』(鴻巣友季子訳・文藝春秋)は、言葉の持つ“力”にあらためて気づかせてくれる一冊だ。
アマンダ・ゴーマンは、2021年1月、アメリカ議会襲撃事件の衝撃のさめやらぬ中、史上最年少の22歳にしてジョー・バイデン合衆国大統領就任式で自作の詩を朗読する栄誉に浴した。その詩『わたしたちの登る丘』は絶賛を受け、ゴーマンはアメリカ最大のスポーツイベント「スーパーボウル」でも初の詩の朗読を行なった。彼女は一躍、アメリカでもっとも有名な詩人となった。
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わたしたち日本人にももたらされる共感
しかし、第1作品集『わたしたちの担うもの』は、そんなふうに「アメリカ」や「アメリカの問題」に紐づけて語られてきた彼女のイメージを、もっと広く大きなものに塗り替えてみせる。だから、アメリカの分断や人種問題が文字通り「海の向こう」のものに感じられてしまう日本人にも、『わたしたちの担うもの』に収録されている作品たちは、国や文化の境界を越えて共感をもたらす。
その筆頭がコロナ禍だろう。本書の冒頭にはまず、
傷つき&癒しながら
進みつづけることを
選んだ
わたしたちみんなに捧ぐ
という4行が置かれ、コロナで私たちの関係が引き裂かれてしまったことを嘆き、それを乗り越えようという決意を謳う言葉たちがあちこちにちりばめられている。とくに、コロナ禍で不自由な学生生活を強いられた20代のひとびとに「その知らせは/斧の一撃のごとく鈍く振り下ろされた/学生はみな可及的速やかに/キャンパスから立ち去るべしと」という連ではじまる『学校、おしまい』は、痛切な思いをもたらすことだろう。
わたしたちはあのコロナ禍でどれほど傷ついたことか。それは日本もアメリカも、あるいは遠い他の国々でも変わらない。「ディスタンス」によって隔てられてしまったわたしたち。それをともに悲しみ、その悲しみに寄り添ってくれるのがアマンダ・ゴーマンの言葉たちであり、それを乗り越えて、かつてあった絆をつなぎ直してゆこうという意志の調べも、『わたしたちの担うもの』には力強く脈打っている。
現代米文学の最新形がここに
そんな「ポスト・コロナのわたしたち」に向けたメッセージの強さに加え、それを乗せるべく言葉を彫琢することで生み出された「現代文学における最新の形」(鴻巣友季子氏「訳者解説」より)も見逃してはならない。SNSでの対話を模したレイアウトによる作品、日記や脚本の形式をつかった作品、そして言葉や文字が魚や議事堂の形になった作品。あるいは同じ音が反復された作品があり、別の言葉と響き合わせた作品がある。文字は読むだけでなく「見る」ものでもあるし、また「聴く」ものでもある。そんな「言葉/文字」に秘められた力を、アマンダ・ゴーマンは駆使している。
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ページを開けば、黒地に白文字のページがあり、あの頃わたしたちの誰もが身に着けたマスクの図像があり、黒人兵士の遺した従軍手帳がある。そんな華麗な「文字のヴィジュアル」と戯れ、さらにそこに込められた「希望」と「変化」へのメッセージを読み込む。本書はさまざまなレベルで、「言葉の力」をあらためてわたしたちに教えてくれるのである。
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本書は著者によるこんな言葉でしめくくられている。
神に感謝します。祖先に感謝します。
わたしは黒人作家たちの娘。縛めを断ち切り、世界を変えた自由の闘士たちの裔。かれらがわたしを呼ぶ。わたしは彼らを担いつづける。
【告知】
『わたしたちの担うもの』の翻訳者・鴻巣友季子さんと、『女の子たち風船爆弾をつくる』の著者小林エリカさんによるトークイベント〈ことばの力とエンパワメント〉がジュンク堂書店池袋本店にて2024年8月21日(水)19:00~より開催されます。配信およびアーカイブ視聴も可能です。
お申し込みは https://online.maruzenjunkudo.co.jp/products/j70019-240821 へ。
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『22世紀の資本主義』成田悠輔・著
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