- 2024.09.27
- 読書オンライン
「おれの女になれ、一晩どうだ」胸をもまれ、スカートをめくられることも…女性の政治進出を妨害する「ハラスメント」の実態
NHKスペシャル取材班
『地方議員は必要か』より #3
出典 : #文春オンライン
ジャンル :
#ノンフィクション
,#政治・経済・ビジネス
アンケートによれば、「飲み会の席でコンパニオンのような扱いをされた」女性議員も…。女性の政治進出を妨げる、悪質なハラスメントの実態とは? 全国1788の地方議会(都道府県・政令指定市・市区町村)と、そこに所属する約3万2000人の議員すべてを対象とした大規模アンケートを行った、NHKスペシャル取材班による新書『地方議員は必要か 3万2千人の大アンケート』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
◆◆◆
議会は“超男社会”
日本の地方議会は、聞きしに勝る“男社会”だ。
女性の地方参政権が認められたのは1946年。その翌年に行われた第一回統一地方選挙で当選した女性議員は793人、当選者全体に占める比率は0.4%だった。
それから70余年。NHKが2019年1月1日現在で調べたところ、全国の地方議員の女性の比率は約13%。女性議員が一人もいない、「女性ゼロ議会」は全国1788議会のうち、340にのぼる。
都道府県ごとの女性議員の比率にも大きな差がある。20%を超えているのは、東京都・神奈川県・埼玉県のわずか三都県しかない。一方、低いところは、青森県(7.3%)、長崎県(7.4%)、山梨県(7.6%)などで、10%を超えていない県は18県もあった。「女性ゼロ議会」は市議会では全体の5%、町議会では27%、村議会に至っては55%もあった。
2019年の統一地方選挙は、男性と女性の候補者の比率をできる限り均等にする法律、「政治分野における男女共同参画推進法」の施行後、初めての大規模選挙だった。議員選挙に立候補した女性候補者の割合は、道府県議・市区議・町村議で過去最高となったが、当選した女性の比率の上昇は僅かにとどまった。比率は回数を重ねる毎に着実に高まっているが、その歩みはあまりに緩やかだ。
「婦人参政権が平等で平和な社会を築く手がかり、『鍵』である」
そう訴えて女性参政権運動に尽力した故・市川房枝参議院議員の記念会が東京・渋谷区代々木にある。市川房枝の精神を受け継ぎ、いまも政治家を志す女性や有権者向けの勉強会などに取り組んでいる。
市川房枝の晩年に秘書を務めた久保公子理事長に、なぜ女性議員が増えないのか、なぜ増えた方が良いのか尋ねた。
「以前に比べたら、弱まっては来ていますが、政治は男がやるもの、女性は内助の功じゃないですが、おとなしくしているものだという意識、大声では言わなくなったとしても男尊女卑的なものがまだあります。ただ、女性は“次の世代”のことをより考えて行動している人が多いように思います。色々な問題が、従来の発想では解決しづらくなっているいまこそ、違った視点をもつ女性が議会に進出することが重要なのです」
それを探ろうと、女性議員が半数を占める神奈川県葉山町議会(定数14)を訪ねた。2019年3月の時点で7人いる女性議員も30年ほど前はたった一人だ。“第一号”だった横山すみ子(2019年3月に引退表明)は、議員になった当初、「よくヤジを受けた」と言う。ただ、ゴミや保育園の問題といった生活に密着した課題について議論を重ねる中で、男性議員から「僕たちは気が付かなかった」と言われるようになった。議会に女性の視点や意見が加わることで、徐々に“雰囲気”が変化していったと振り返ってくれた。
同じく長年議員を勤めた畑中由喜子(2019年3月に引退表明)も、女性議員が増えたことで議論が活性化し、それに触発されるかのように男性議員も活発に発言するようになったと言う。こういう変化が生まれたのは、女性議員の方がより社会的な縛りがなく、「これはダメとか、これはこうしようというような考えを割とはっきり打ち出す」傾向があるからだというのだ。
葉山町議会はあくまで一例だが、女性議員は、ゴミや保育園、介護など、男性議員が取り上げなかった生活に密着した課題に、女性の視点・立場でより積極的に取り組む傾向がある。女性議員の存在は、“男社会”に化学変化をもたらす“触媒”のような役割を果たしているのかもしれない。
女性議員を悩ませる「票ハラ」
アンケートからは、やりがいや、議会に起きた変化についての記述もある一方で、女性議員を取り巻くハラスメントの実態も見えてきた。
〈飲み会の席でコンパニオンのような扱いをされた〉
〈服を脱がされる、両脇をかかえて両方から胸をもまれる、スカートをめくられる。おれの女になれ、一晩どうだ、など〉
〈握手をして手を離さない、お酌を強要する、大きく抱きついて愛しているとキスをされた。議員のお尻を触ってみたいと大きな手でつかまれた。告発したいと思ったができなかった〉
アンケートの自由記述欄には、目を疑いたくなるような女性議員の悲痛な声が並んでいた。憤りにも似た驚きを持って読み進める中で、耳慣れない言葉を見つけた。
〈女性議員に対する「票ハラ」は厳然と目の前にある現実である。私も例外ではなく、この現実のなかでもがき苦しんでいる女性議員の一人である〉
「票ハラ」とは一体何なのか、さっそく議員本人に連絡を取った。この女性議員は「票ハラは女性議員なら誰もが経験している」と断言した上で、選挙や日常活動を巡るハラスメントの現状を打ち明けてくれた。
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