- 2024.09.26
- 読書オンライン
「反対するといじめられる」「議会に緊張感がなくなる」それでも地方政治から「ボス議員」がいなくならない理由
NHKスペシャル取材班
『地方議員は必要か』より #1
出典 : #文春オンライン
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
「本来、議会という公開の場で議論すべきことが議論されない、ということがよくある。首長とボス議員が見えないところで色々決めてしまうのです」…それにもかかわらず、地方政治から「ボス議員」「ドン」と呼ばれる存在がいなくならない理由とは? 全国1788の地方議会(都道府県・政令指定市・市区町村)と、そこに所属する約3万2000人の議員すべてを対象とした大規模アンケートを行った、NHKスペシャル取材班による新書『地方議員は必要か 3万2千人の大アンケート』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
◆◆◆
議論が活性化しない理由
自由記述欄からは、地方議会のキーマンとも言える存在が浮かび上がった。「ボス」や「ドン」と形容される議員の存在だ。アンケートでは、「ボス」や「ドン」についてこのような記述があった。
〈議会の活動の中でも他の議員がボスに気をつかっている様子もわかる。特に職員や首長はボス議員に気をつかっていることは明白で、これが町の施策をゆがめている原因の一つでもある〉(60代・男性町議・近畿)
〈議員に「ボス」が生まれ、彼が執行部とグルになって議長などの役職を決め、それを選挙せずに押し付けてくる。反対するといじめられる。発言を封じられる〉(70代・男性町議・関東)
「ボス」や「ドン」と呼ばれるような「大物」議員は、実は自治体の規模に関係なく、よく存在する。必ずしもこのような議員が、一律に批判されるべきだとは思わない。当選回数を重ね、行政についての専門知識や経験を身につけた議員が議会の中で指導的な立場に立つのは自然なことともいえる。
一方で、議会のボスについて前出の江藤教授は、次のように指摘する。
「本来、議会という公開の場で議論すべきことが議論されない、ということがよくある。首長とボス議員が見えないところで色々決めてしまうのです。ボス議員が誕生する背景として、まず首長の側から見ると、ボス議員と話をつけた方が、色々物事が進めやすいというメリットがあります。また、ボス議員にとっては、情報や権限が集まり、ほかの議員より優位に立てるので、ボス議員の周りに議員や役所の職員が集まってくるという流れができます」
行政側は予算や議案に議会から注文がつくことは避けたいと考えることが多いようだ。そんなときに、ボス議員の存在は、ありがたいというわけだ。先に紹介した、倉吉市で市長も市議もつとめた長谷川稔はこう証言する。
「ボス議員がいれば、議員一人一人と向き合わなくてもよくなるので、首長にとっては助かる。議会と宴会がなければ首長の仕事はだいぶ楽になるはずですよ」
ここでいう“宴会”とは、支援者たちとの会合や地域コミュニティでの様々なイベントへの参加等の日常活動を指している。
一方、ボスと気脈を通じることで、「円滑」に議会を運営できれば首長の仕事はほぼカタがついたも同然なのだ。ボスさえ押さえてしまえば、あとはトップダウンで、原案が可決されていく。
事前の根回しを重んじてきたのも日本の伝統的な意思決定のプロセスではある。しかし、オープンな場で議論をせずに、物事を進めてしまうのは、議会がそもそも存在する意義を失いかねない。
首長と議会の間に緊張感がなくなると、どのようなことが起こるのか。このような記述を寄せてくれた議員がいた。
〈ベテラン議員の中には居眠りをしていたり、議案質疑もすることなく、一般質問も市職員に作ってもらっている議員がいる〉(60代・男性議員・東海)
〈首長に対し、あからさまにおねだりの様な質問や発言をする、或いは逆に質問や発言を全くしない、そんな議員が増えている事に危惧を感じております〉(50代・男性市議・中国)
議員で全く質問をした記録のない議員…
「そもそも質問すらしない」とはいったいどういうことなのだろうか。
実態を詳しく調べるため、私たちは各地で発行されている「議会だより」を丹念に点検した。その結果、議会で全く質問をした記録のない議員を発見した。
東京から1400キロ余り離れた北海道枝幸町(定数12)。人口は約8000人でオホーツク海に面し、特産の毛ガニは水揚げ量が日本一という一次産業の町だ。その町に10年間にわたって一度も議会で質問していない男性議員がいた。当選7回、在職27年のベテランだ。自宅を訪ねると、男性はすぐに我々を招き入れてくれた。
〈「ただ議会で質問すればいいという問題ではない」10年にわたって“質問回数ゼロ”…当選7回・ベテラン地方議員の「驚きの言い分」〉へ続く
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