あなたは何歳からでも生きなおせる! 「生きづらさ」を抱えるすべての人のための特効薬
最近、街なかで若い人から声をかけられます。数年前になりますが、銀座の有名なレストランに入ってひとりでカレーを食べていたら、男の人がずっとこっちを見ていました。会計を終えて外に出ると、その彼が待っていて「田嶋先生、僕は先生のファンです。子どものころ、親と一緒にテレビで観てました」と言われました。
子どもを抱いた男の人が、「先生のおかげで助かっています」と声をかけてくることもあります。昔は、男の人が子どもを抱いたり、ベビーカーに乗せて外出することなんて考えられませんでしたが、今は男の人も子育てに悩むようになってきました。ようやく男の人も普通に家事や子育てをするようになって、世の中も少しはいい方向に進んでいますね。
若い人の意識が、ずいぶん変わってきたのかもしれません。声をかけてくれる三十代や四十代の人の話を聞くと、子どものころに私がテレビで女性差別について怒っている姿をさんざん見てきたそうです。きっと今になって、あのとき怒っていたセンセイの言うことが正しかったのかも、と思ってくれているのでしょう。私がテレビに出ているときは誰も味方してくれなかったのですが、そうやって種を蒔くことはできたのかなと思います。
新聞や雑誌の取材を受けたり、原稿を依頼されたりすることも増えました。きっかけは、二〇一九年、松尾亜紀子さんが創刊したフェミマガジン『エトセトラ』(エトセトラブックス刊)で「We♡Love 田嶋陽子!」という特集が組まれ、作家の山内マリコさんと柚木麻子さんが責任編集を務めてくれたことにあります。雑誌の反響は大きかったようで、それ以来、「田嶋陽子ブーム」や「田嶋陽子の再評価」といった言葉を耳にするようになりました。といっても、それだけ女性を取り巻く状況が昔と変わっていないということですから、再評価と言われても複雑な思いがします。
三十年前に書いた自伝的エッセイ『愛という名の支配』も、山内さんがSNSですすめてくれたおかげで、若い人たちが手に取ってくれるようになり、新潮文庫で復刊されました(二〇二二年に韓国版刊行、二〇二四年に中国版刊行)。
この自伝的エッセイ、『愛という名の支配』は私の魂の記録です。私の女性学的研究のすべてはここが原点です。私は子どものころから母との関係に葛藤を抱え、「女らしくしろ」という抑圧に苦しみ、ずっと生きづらさを感じてきました。自分が何者か分からなくて、暗く長いトンネルのなかを歩いているような状態でした。その苦しみと向き合って客観的に分析しているうちに、私はこの苦しみが自分だけの問題ではなく、世界中の女性を苦しめている問題でもあることを確信しました。同時に、自分の進むべき道が見えてきました。すでに『愛という名の支配』を書く十年ほど前から、私は「『父の娘』と『母の娘』と」、「カルメンはなぜ殺されたか」など、女性学に関する論文を専門誌や論文集に発表していました(『もう、「女」はやってられない』に収録)。書くたびに新しい発見があり、私は自分を少しずつ解放していったのです。書く行為がいわば「自己セラピー」になっていました。
『愛という名の支配』は、そうした私の魂の軌跡を綴った集大成です。世間が評価しようがしまいが、自分にとってとても大切な一冊です。だから、それを読んで勇気づけられる人がいるのなら、最高にうれしい。
女性を苦しめてきた差別に少しずつ変化の芽が出始めつつある今、本書『わたしリセット』を出版することになりました。
この本では母との葛藤についてだけでなく、四十六歳で自己が解放されたあと、「わたし」を「リセット」して、どう生きてきたかも記しました。四十代までは法政大学の教養学部で教えていましたが、四十九歳のときに初めてテレビのバラエティ番組に出演し、六十歳のときに国会議員になり、六十五歳からシャンソンや書アートの活動もしています。こうして新しいことに次々と挑戦できているのも、自分を取り戻すことができたからです。四十六歳からの再出発ですから、ずいぶんと時間がかかりましたが、そのぶん、今は自分をめいっぱい出せています。
もし今、壁にぶつかっている若い世代がいれば、その苦しみときちんと向き合い、乗り越えることができればいいなと思う。もしくは、六十歳を過ぎてもまだ自分を失っているのなら、あきらめずに自分を解放してほしいと思う。みんな、自分をどんどんリセットしてほしいです。
女だろうが男だろうが、人間として生まれたかぎりは、誰もが自立して生きたいと思っているもの。フェミニズムはそのことに気づくための考え方のひとつです。女性や男性の区別なく、フェミニズムの精神は、みんなが持っているものなのです。
本書は今の私をありのままに書きましたので、みなさんが自分を生きるきっかけになることを願っています。自分の人生は自分だけのものです。誰もがどんな人生でも選ぶことができる。私たちには自ら未来をつくる権利と自由があるのですから、自分を解放して、人生をもっともっと楽しんでほしいです。
「はじめに」より
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