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若者より高齢者のほうが勝ち組だった! 幸福度が最高になるのは82歳以上

出典 : #文春新書
ジャンル : #ノンフィクション

老いるが勝ち!

和田秀樹

老いるが勝ち!

和田秀樹

くわしく
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 医療、特に高齢者医療に長いあいだ関わっていますと、理屈通りにはいかないなと思うことがしばしばあります。

 タバコをスパスパ吸って一〇〇歳まで生きる人もいれば、検査データは全部正常なのにガンで亡くなってしまう人もいます。医者に言われて血圧とかいろんなことに気をつけて暮らしているのに、突然脳卒中で亡くなってしまう人もいます。

「理屈通りにはいかないな」と思う瞬間です。

『バカの壁』で知られる養老孟司先生もこの言葉が大好きです。

 先生と対談したときに、「いや、私は世の中、理屈通りになんかいくと思ってないからね」とおっしゃって、スパスパとタバコを吸っておられました。

 タバコが体に害を及ぼすことは分かりきったことですが、タバコを吸ってあのお年まで生きてこられたどころか、毎年のように海外に出かけていってジャングルに入って虫を捕る元気もあり、頭脳は明晰なのですから、それでまったく問題はないと言えるはずです。

八〇歳を過ぎたら我慢しない。
食べたいものを食べ、好きなように生きる

 私が長年勤めていた浴風会病院は高齢者専門の総合病院です。

 その経験も含めて、高齢者専門の精神科医として、約三五年間、臨床現場で過ごしてきました。診療した患者さんは六〇〇〇人を超します。自分で言うのもナンですが、老年医学のプロフェッショナルだと自負しています。

 浴風会時代は、毎年、一〇〇人ほどのご遺体を解剖させてもらっておりました。すると、本人も自覚していなかったような大きな病巣があるのに、それ以外の原因で亡くなったケースが少なからずありました。

 つまり、最後まで気が付かなかった病気もあるのです。

 ガンもそうです。

 八五歳を過ぎた方のご遺体を解剖しますと、ほとんどの人の体にガンが見つかります。

 世間の常識では、「ガンは早期発見・早期治療すべき病気」とされていますが、本人が気づかないガンもあるし、生活に支障がないガンもあることを教えてくれているわけです。実際、そのうちガンが死因だったケースは三分の一にすぎません。残りの三分の二は“知らぬが仏”のまま亡くなっているのです。

 とりわけ齢を取ってからのガンは、進行が遅くなるため、放っておいても大丈夫なケースは意外と多くあります。
 

 ここから導き出される選択は、八〇歳を過ぎたら我慢しない、という生き方です。

 ガンにならないように我慢していた、食べ物、お酒、タバコはもう控えたりしなくてもいい。高齢者はすでにガンを持っていることが多いからです。

 好きなものを飲んで食べて生きたほうが、ストレスが少なく、楽しく生きられるのではないでしょうか。そして、そのほうが免疫力が高まって長生きできるかもしれないのです。

理屈というものは常に変わる。
常識とされる説も普遍ではない

 世の中で客観的で間違いないと言えることは、人間の死ぬ確率が一〇〇パーセントだということくらいでしょう。だから、ありとあらゆる医療は、死ぬ確率を減らしたり死ぬのを多少(これもどの程度かわからないのですが)遅らせたりはできても、死ぬのを防ぐことに成功したことがありません。

 理屈通りにはいかないものです。

 インテリと言われている人を当てにしていいのかどうかですが、インテリは旧来の理屈に縛られている危険性が高いのではないかと思います。

 例えば、長生きしたいのでしたら、医者の話を聞くよりも、実際に長生きしている人──それも医者ではない人──に話を聞いたほうがいいかもしれません。一〇〇歳を過ぎてもカクシャクとしておられた日野原重明先生なんかは例外で、大抵の医者はそれほど長生きしていませんからね。
 

 もう一つ重要なポイントとして挙げておきたいのは、理屈というものは常に変わることです。

 古くは、天動説が地動説に変わったのがいい例です。それまで正しいと思われていた理屈が、突然パッと変わってしまう。

 身近なケースで言いますと、植物性の油のほうが動物性の油よりもいいと信じられていた時期がありました。その時期には、マーガリンが健康にいいとされていた。ところが今や、マーガリンに含まれるトランス脂肪酸は、諸悪の根源のように言われています。

 実のところ、これだって、普遍的な真理である保証はどこにもありません。実際、マーガリンに再評価の声もあがっています。いずれにしても理屈は変わります。

 その一例として、「肥満パラドックス」と呼ばれるものがあります。太ることはあれほど悪いことだと言われていたのに、疫学データから見ると、「太めの人のほうが長生きしている」傾向が顕著にあるのです。

「閉塞性動脈硬化症」は足に血が行かなくなってしまう病気で、余計に悪くなるから太っちゃダメと言われてきました。ところが調べてみると、瘦せている人のほうが早く悪くなるという研究結果も発表されています。

 このように常識とされてきた説でも、きちんと調べ直してみると違っていたということが意外に起きるものなのです。

 以下の章で、そうした理屈と現実の逆転について細かく検証していきたいと思います。流通している理屈や常識がいかに危ういものかを知って、驚かれることでしょう。

 それらが次々と明らかになることによって、老後がますます楽しくなります。そして最終章では、いよいよ、齢を取れば取るほど幸せになることがご理解いただけることと思います。つまり、老いるが勝ちです。

《プロローグが教える生き方のヒント》

◎八〇歳を過ぎたら我慢しない。ガンにならないように我慢していた、食べ物、お酒、タバコはもう控えたりしなくてもいい。

◎長生きしたいのなら、医者の話を聞くよりも、実際に長生きしている人に話を聞いたほうがいい。

◎理屈というものは常に変わる。


「プロローグ」より

文春新書
老いるが勝ち!
和田秀樹

定価:990円(税込)発売日:2024年08月20日

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発売日:2024年08月20日

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