- 2022.11.25
- インタビュー・対談
働く女性を取り巻く状況への苛立ち、そして責任――『男性中心企業の終焉』(浜田敬子)を書いた理由
文春新書編集部
『男性中心企業の終焉』(浜田 敬子)
ジャンル :
#ノンフィクション
AERAの編集長を務めた後、オンラインメディアのビジネスインサイダーの編集長に転じ、今はフリーランスのジャーナリストとして活動しながら、リクルートワークス研究所の専門誌「Works」の編集長を務める浜田敬子さん。働く女性たちを20年にわたって取材してきた集大成ともいうべき『男性中心企業の終焉』を上梓した。
この10年間、女性活躍や多様性、D&I(Diversity&Inclusion)など、女性の地位向上や働きやすさの支援などは様々に議論され、後押しされてきたはずなのに、日本のジェンダーギャップ指数はじりじりと後退して、先進国の中でジェンダー後進国として取り残されてきた。それはなぜなのか。日本企業に根強く残る「男性中心企業」の根っこに、コロナ禍で変わり始めた先進的な企業の奮闘をまじえて迫った本書は、切れ味鋭く未来の展望をも描く。働く女性たちを長年取材し続けてきたのはなぜなのだろう。
「あまりの変わらなさに対する苛立ちがいちばん大きいです。私は1999年頃からAERAで働く女性たちを取材していて、2010年頃には女性が当たり前にやりがいをもって働き続けるようになるだろうと予想していたのですが、それはすごく甘い見通しだったと思います。今後も、あと10年で状況が劇的に変わるかというと、残念ながら難しいと思います。もちろん企業は大きな変化のトリガーになるでしょう。でもやはり政治における変化も大事だと思います。この2カ月くらいで明らかになったように、性別役割分業意識の強化の一因には宗教右派のような政治的支持団体と政治との結託があった。2010年代以降の安倍政権下で、表では「女性活躍」と言いながら裏側ではブレーキを踏み続けられてきたわけです。一般職をどんどん非正規化していく動きが強まり、夫婦別姓は断固として認められなかった。女性活躍を阻んでいる要因を根元から断つこともすごく大事だと思います。
もう一つは “責任”です。私は男女雇用機会均等法世代で、さらに上の世代の先輩たちからバトンを受け継いできました。でも働き始めた最初の10年間、私自身がものすごくマッチョな女子だったんです。男性の働き方に過剰適応して、セクハラも長時間労働もやり過ごすよう感情を摩耗させながらやってきた。ある種の保身ですよね。面倒な女と思われたくない、仕事から干されたくないので嫌でも声を上げなかった。この数年、それがハラスメントや女性差別を温存させてしまったという責任を痛切に感じています。
そして最後に“自分事”だということです。自分自身が管理職になったとき、出産したとき、いくつかの転機において、それまで男性中心企業に順応していた時にはわからなかった障害に気づかされた。出産したら大事な仕事から外されたり、男性たちは社内の情報をたくさん持っていたりすることは、実はすごく構造的な問題だと気づかされたわけです」
人口減少社会の加速で、働き手の不足に直面している職場も少なくない。近年、「男性中心企業」に見られる失言など不祥事のリスクも取り沙汰されるようになった。浜田さんは、女性たちだけでなく、とりわけ40代以下の男性たちにもジェンダー不平等の改善に取り組むことの大切さが意識されてきていると言う。
「従来的なおじさんたちの成功体験全てを否定するつもりはないけれども、でも変わらなければいけない。そして変えるのにいちばん早いのは組織の構成員を替えるということだと思うんです。同じ人の意識を変えるのは難しくとも、人を入れ替えることでダイナミズムが生まれる。
人材不足はどの職場でも喫緊の課題です。でも日本にはシニア層と女性という「眠れる人材」がいます。これまでのフルタイム出社という枷を外すだけで、いままでキャリアや働くこと自体を諦めていた人たちが働けるようになるかもしれない。例えばフルタイムではなくて短時間の正社員のようなことを認めれば、もっと能力を発揮できる人たちもいる。そうやって多様性ある人材が企業に入ってくれば、新しいイノベーションやアイデアも生まれやすくなります。また、多様性のない職場には若い人たちは入ってこないですよ、という語り方をすると、男性たちにもシリアスに捉えてもらえると感じています。
もう一つ頼もしく思うのは、今の30代、40代の女性たちの逞しさです。男性的な働き方に唯々諾々と従わない。交渉する。長時間労働が本当にいい仕事につながるのかという本質的な問いを投げかける。いいアウトプットとは何か、いい管理職の要件とは何かと問い直すと、実は大事なのは時間ではないと気づく。すると「できる社員」の捉え方も変わってくる。そこに気づいた職場から変化が生まれるのだと思います。今までは暗黙の裡に「あいつはできる」と言われる男性に恵まれがちだったチャンスが、出産後の女性にも開かれるようになるかもしれない。でも待っているだけでは変化のスピードは遅いので、最初は気づいた個人とか仲間で下からも問題提起して交渉して突破していくことが大事ですね」
企業における上からの変化、下からの変化。どうやったら今までの文化を変えることができるのか、変えようとする過程で直面する難所やその突破の仕方は、本書に書かれた豊富な事例がヒントになるはずだ。浜田さんは、本書にも出てくる愛知県瀬戸市にある大橋運輸の鍋嶋社長の言葉が忘れられないと言う。
「鍋嶋さんは「人の意識を変えるのは難しい。でも知識を高めることで意識を高めることはできます」とおっしゃるんです。鍋嶋さんにしても、冒頭に出てくるメルカリCEOの山田さんにしてもリサーチをされたり本を読んだり、ジェンダーやダイバーシティーのことをものすごく勉強していらっしゃる。やっぱり知ることってものすごく大事だと思います。世界の状況がどうなっているのか、男性中心企業にどんなリスクがあるのか。だからこの本を読んでほしい」
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