〈ビル・ゲイツ、カーネギー…アメリカの超エリートはなぜむちゃくちゃ働くのか?〉から続く
「面白い」「すごく共感する」。経営者をはじめ、さまざまな人が絶賛している『宗教を学べば経営がわかる』。中東情勢やアメリカ大統領選について、共著者の池上彰さんと入山章栄さんが本の刊行を記念して特別対談を行った。*この対談は、文化放送「浜松町Innovation Culture Cafe」(9月9日放送分)を再構成したものです。
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入山 池上さんはこの手の質問いっぱい受けると思うんですが、今後の大統領選の展開をどういうふうにごらんになっていますか? 11月なので、まだまだわかりませんが、トランプは銃撃事件で一気に人気が出るかと思ったら、今度はバイデンが降りたことで、カマラ・ハリスの人気がすごくて、今はカマラ・ハリスの方がやや支持率が高いという状況です。
池上 これは無茶ぶりですね(笑)。アメリカの大統領選挙では「オクトーバーサプライズ」という言葉がありまして、選挙直前の10月にあっと驚くようなことが起こって、世の中の傾向がガラリと変わるってことがあるんです。2016年はトランプ対ヒラリーで、ヒラリーが間違いなく当選するだろうと言われていたんですね。10月ずっと私はアメリカにいたんですけど、10月中旬に一気に雰囲気が変わってしまった。ヒラリーが実は国務長官時代に国務省の重要な公用のメールを私用のパソコンから送っていて、そのメールのいくつかが消えていたという問題でFBIが新たな証拠が出たので再捜査することになった。その途端にヒラリーは犯罪者なのかなって雰囲気になったんです。あのときオクトーバーサプライズですっかり変わってしまったことがあるので、今回もまだまだわからないというところはあります。
ただし今回、トランプが銃撃事件で耳のところをかすめるという形で命拾いしたことによって、「神様が助けたんだ」「神のご加護だ」っていう形で、一挙に共和党のトランプ支持者は盛り上がりましたよね。一方で、民主党の方は「バイデンはダメだしな」ってがっかりしたりうんざりして支持層が離れていたところに、突然いきのいいカマラ・ハリスが出てきたことによって、ちょっと希望がつなぎ止められる形で若い人がどっと戻ってきた。
ハリスvsトランプのテレビ討論会は見もの
池上 とにかくトランプさんの熱烈なファンがいる一方で、トランプが大嫌いな人もいるわけですよね。トランプを熱烈に支持している人が40%、絶対嫌いな人が40%、残りの20%がどちらかなというところで、今回バイデンが撤退したことで「反トランプが実現するかもしれない」と思った人たちがどっと戻ってきた。それから、カマラ・ハリスって演説が結構上手ですからね。それでワッと人気が高まっている。しかしカマラ・ハリスは副大統領の時に影に隠れていたので、本当に実力があるかどうかがこの後試される。
入山 なるほど。結構私の理解では、ハリスは政策執行能力についてはあまり評判が良くないですよね。
池上 そうなんですよ。「不法移民問題をなんとかしろ」と言われていたにもかかわらず、南部に6ヶ月も行っていなかったんです。だから、そこが本当はどうなのか、というのはこれからわかってくる。今はハリス人気がありますけど、上滑りなのかもしれないということですよ。今の人気はちょっとバブルかもしれない。
入山 そうなんですよ。これから公開討論会が行われて、トランプとカマラ・ハリスの間で政策論になっていくと、意外と「あれ、ハリスさん大丈夫?」っていう風になってくるかもしれません。
池上 なるかもしれないし、カマラ・ハリスってもともと検事だったわけですよね。カリフォルニア州の司法長官だったことがあって、弁舌というか人を追及する力ってのがすごいんですよ。つまり、大統領としての実力があるかどうかはともかく、人を批判する点においては非常に力があるんですよ。実は2020年の時に民主党の大統領候補選びの段階でバイデンとハリスが対決したことがあったんです。そしたら、ハリスがバイデンをやり込めちゃって、バイデンが絶句してしまった。ハリスもすごいと思いますし、最終的にそのハリスを副大統領に選んだバイデンもすごいと思います。
そういう意味で言うと、トランプってやりとりするとき、話をはぐらかしたりすることによって、うまく受け流すのは上手ですよね。一方、カマラ・ハリスってのは人を追及するっていうところに力があるので、テレビ討論会は見ものですよ。
入山 たぶんカマラ・ハリスがガンガン追及して、トランプがうまくいなしていくみたいな。これは見ものですよ。
ワルツを副大統領候補に選んだハリスの戦略
入山 一方の副大統領候補はいかがですか? 僕は素人ながらに言うと、トランプはヴァンスを選んだのはちょっと失敗だったんじゃないかと思うところがあって。ヴァンスはミニトランプみたいな感じじゃないですか。同じような人を副大統領にしたことで支持層が広がらなかったのではないかという印象を持っているんですけど、いかがですか。
池上 これはね。つまり、民主党がバイデンのときに作った戦略なんです。ひじょうに弱々しいバイデンなら民主党が団結できない。それならむしろ共和党の票固めをすればいいんだと、似たようなヴァンスを選んでみた。そしたら、その後、敵が変わっちゃった。今はしまったと思っているでしょうね。ヴァンス副大統領候補が批判されたら、トランプが突然「いやいや、大統領選挙というのは大統領同士で見るものであって、副大統領で判断するものではない」って言い始めましたからね。
入山 なるほど。一方の民主党も、カマラ・ハリスが副大統領候補に選んだワルツは、私も知らない方だったんですが、動画で見ると、まず「気の良さそうなおっちゃんだな」っていうのと「やっぱり演説はうまいな」っていうのが私の印象なんですが、いかがですか?
池上 まさにその通りですよね。彼はミネソタ州で知事をやっていたわけですけど、17歳で州兵に入っているんですね。アメリカって連邦政府軍とは別に州がそれぞれ軍隊を持っていて、州の軍隊に20年もいたんですよね。アメリカが9・11の後にアフガニスタンを攻撃しましたでしょ。アフガニスタンにアメリカ兵が大勢行ったとき、アメリカの連邦政府軍だけでは足りないので、州兵もあちこちから動員したんですよね。ワルツはそれで「私はアフガニスタンのテロとの戦いに参加したんだ」って言ってたんですけども、確かに動員されたんだけど、本人はアフガニスタンに行ってなくて、イタリアで後方支援をしていたんですよ。なので、「正確じゃないじゃないか」とか「話を盛ったんじゃないか」とちょっと叩かれているんですよ。それに対して、ヴァンスは海兵隊で本当に行ってるんですよね。
ワルツは、州兵だったり、学校の先生をやったり、州の下院議員をずっと務めたりしてきた。政治についての経験は豊かで、あの気の良さそうなところが、いわゆるアメリカの中流の人たちから反感を買わないんですよ。言ってみれば、大統領より人気が高くなると困るんですけど、大統領を立てながら気の良いおっさんだよねっていうのが非常にいいのかなって思いますよね。
入山 今回のスイングステート、つまり票が割れそうな州のひとつが、私の住んでいたペンシルバニアです。ペンシルバニアの州知事のジョシュ・シャピロを副大統領候補にするんじゃないかという話がありました。最終的にはシャピロを選ばず、ワルツを選んだわけですが、カマラ・ハリスの戦略から見ると、ワルツのほうがいいって判断したってことですよね。
池上 これはね、たぶん悩んだんだろうと思うんです。シャピロって特にイスラエルを全面的に支援するというやり方で、民主党支持者のなかに「ちょっとやりすぎなんじゃないの?」と思っている人たちがいる。そういう人たちの反発を買いそうだという判断が最終的にあったのかなってことですね。
文化放送「浜松町 Innovation Culture Cafe」の音声はこちらからお聴きいただけます。
https://podcastqr.joqr.co.jp/programs/hamacafe
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