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中東情勢、そこからですか!? 領土問題、ハマス、ヒズボラを解説

中東情勢、そこからですか!? 領土問題、ハマス、ヒズボラを解説

池上 彰,入山 章栄

経営学から宗教を分析し、宗教からビジネスを学ぶ

出典 : #文春オンライン
ジャンル : #ノンフィクション

会社も宗教も人と組織でできている〉から続く

「面白い」「すごく共感する」。経営者をはじめ、さまざまな人が絶賛している『宗教を学べば経営がわかる』。中東情勢やアメリカ大統領選について、共著者の池上彰さんと入山章栄さんが本の刊行を記念して特別対談を行った。*この対談は、文化放送「浜松町Innovation Culture Cafe」(9月2日放送分)を再構成したものです。

『宗教を学べば経営がわかる』

◆◆◆

入山 本の対談のときも雑談が多くて、それが楽しかったんですけど、いよいよ本題の議論をしていこうと思います。今回お話しするテーマは、「中東情勢と宗教に学ぶ経営」です。本にあわせて「経営」とつけていますが、池上さんに幅広く今の中東情勢をどうごらんになっているのかをおうかがいしていきたいと思っていまして。リスナーの皆さんもご存知のように、今、中東が大変な情勢になっています。昨年10月にパレスチナのハマスがイスラエルに奇襲攻撃をして以来、情勢が不穏で、第五次中東戦争が始まるんじゃないかと言われています。

池上 中東って宗教的な争いとよく言われますけど、結局は土地争いだから、ビジネスにたとえて言えば「シェアをどう取るのか。どこの会社がどれだけシェアを取るのか」という問題なんだろうと思います。ただし、イスラエルの場合は、もともと第二次世界大戦のときにナチスドイツによって600万人もユダヤ人が殺されてしまった。それに対して世界が贖罪意識を持ったり同情的になったりして、ユダヤ人たちが「もともと住んでいた場所に戻って国を作りたい」って言うからいいだろうと認め、イスラエルという新しい国を作った。でも、ユダヤの王国がなくなってから2000年経ってる間に、そこにはアラブ人たちが住んで、みんなイスラム教徒になっていた。そこに「昔住んでいたからと言って、戻ってくるのはとんでもない。冗談じゃないよ」という土地争いから、中東問題が非常に深刻なことになってきたんです。

入山 もともとは領土問題だっていうことですよね。

池上 今も結局は土地争いですよね。たとえば、ハマスが支配しているガザ地区。ハマスは「イスラエルも含めて全部ここはイスラムの土地なんだ」って言う。その一方で、イスラエルの連立政権には極右政党も入っていて、その人達は「そもそもパレスチナは認められない。すべて神様から与えられたユダヤ人の約束の地なんだ」という。

もともとの原因はイギリスの「三枚舌外交」

入山 私は中東を全然知らないですから、実は今回も池上さんに「何か一冊でもいいから中東の本を教えてください」ということで、宿題を出してもらいまして。千葉大学教授の酒井啓子さんの『〈中東〉の考え方』(講談社現代新書)を宿題として読んだんですが、やっぱり本当に複雑ですよね。読めば読むほど、私みたいな門外漢が簡単に「中東問題ってこうですね」って言えないところがありますね。

 根源にあるのは領土問題なんだと理解しています。もともとの原因は、第一次大戦のときの、イギリスのいわゆる「三枚舌外交」ですね。「パレスチナをユダヤ人にあげるよ」と言ったり、「アラブの国を作っていいよ」と言ったり、フランスには「この土地を一緒に分けようぜ」みたいなふうに言ったおかげで領土問題になってしまったわけです。

 

 そもそもは領土戦争だったんだけれども、宗教戦争的な意味合いが出てきていると私は理解しています。ハマスはイスラエルと敵対関係にありますが、「イスラム勢力を拡大させることが大事」だと言っていますし、イスラエルは宗教シオニズムという考え方が出てきて、「パレスチナの地を治めることが宗教的な使命なんだ。それでメシア(救世主)の復活を早めるんだ」という考え方を持っている人がだいぶ台頭しているというのが私の理解です。この理解でよろしいでしょうか。

池上 まったくその通りですね。そもそも土地争い、支配争いだったのが、いつの間にか「どっちの考え方が正しいんだ?」みたいなことになってしまっているということですね。だから解決は難しくなってますよね。

ハマスへの攻撃に反対する「超正統派」

池上 さらに、入山さんが言うように「知れば知るほど複雑になる」という話で言うと、実はイスラエルのなかには極右や、超正統派などいろいろな人がいるんですね。ちょっと語弊があるかもしれませんけど、たとえば神様から与えられた約束だから、ここにイスラエルの国を作るのは当然だって一般的にみんな思っているわけですよね。ところが、超正統派の中にはそれに反対する勢力がいるんですよ。要するにシオニズムで、ここにユダヤの国を作るということに反対する人たちがいる。なんで反対するのか? そもそも神様から国をもらわなければいけない。神様からこの土地を与えられたんだから、神様によってこの国ができなければいけない。それを人間どもが勝手に実力で国を作るというのは許せないという人たちがいる。

 

入山 神様から与えられるものだから、その人たちで武力が奪っている時点で正しくないと。

池上 非常に平和主義的で、ハマスへの攻撃も反対していたりですね。イスラエルって徴兵制があるんですけど、徴兵制に反対しているんです。これまで徴兵に応じないことを認めてきたんですが、イスラエルの最高裁判所が「いわゆる超正統派だってイスラエルの国民だから、兵役の義務がある」と。該当する人たちに兵役の命令書が届くようになり、それに対して超正統派が受け入れるのか、その命令書を破り捨てるのか、今まさに佳境に入っています。

ヒズボラをつくりあげたのは…

入山 そこで、池上さんにお伺いしたいことがあります。私の理解では、まずパレスチナにはハマスがいて、その北のレバノンにはヒズボラがいて、それから南のイエメンにはフーシ派がいて、イスラエルと敵対するようになってきているわけですよね。こういった勢力もかなりイスラム原理主義というかイスラム色が強いという理解でよろしいでしょうか。

池上 その通りですね。たとえばパレスチナのガザ地区はハマスが統治していますよね。それに対して、ヨルダン側の西岸地区はファタハが支配しています。ファタハは、パレスチナ自治政府の主流派なんですね。かつてファタハを率いていたヤーセル・アラファトは亡くなりましたけど、このファタハはイスラエルと共存していこうという穏健派なんですよね。それに対して、ハマスはとにかく「イスラエルを追い出さなければいけない」「ハマスに従うユダヤ人は留まることを認めるけれど、それ以外の連中は全部追い出さなければいけない」という考え方で、イスラエルと真っ向からぶつかっていくことになるわけですよね。

 イスラム教にはスンニ派とシーア派がありますが、このハマスはスンニ派になります。一方、ヒズボラとフーシ派はシーア派になるんです。もともとレバノンに関しては、かつてアラファトが率いていたPLO(パレスチナ解放機構)が、レバノン南部に拠点を築いてイスラエルに対する攻撃をしていたんですよ。そこでイスラエルがPLOを壊滅させようとレバノンに侵攻して占領し、PLOを追い出すことに成功した。その結果レバノンの南部に住んでいる人たちが大勢殺されてしまって、この人たちが猛烈に反発したんですね。レバノン南部はシーア派が大勢住んでいたものですから、イスラエルに対して反発するシーア派が立ち上がったのを見たイランが、絶好のチャンスだということで、イランの革命防衛隊が入ってヒズボラをつくりあげたんです。

入山 だからイランとヒズボラは関係が深いわけですね。

池上 ハマスはスンニ派で、イランはシーア派です。宗派が違うので、提携はするけれどもそんなに密接な関係ではない。だから、ハマスがイスラエルに奇襲攻撃をすることを通告していなかったので、イランは知らなかったんですね。ところが、ヒズボラはイランによって作られた組織ですから、イランの言う通りのことをするんですよ。ヒズボラはイスラエルに対するミサイル攻撃をしていますが、決定的なダメージを与えることはしていないんですね。つまり、イランが「この程度で抑えておけ」と言っているので、それに従っているわけです。

「抵抗の枢軸」とは?

入山 なるほど。リスナーの方で知らない方もいらっしゃると思うので説明しておくと、私のつたない理解ですが、イスラム教徒はすごく大まかに言うと、シーア派とスンニ派に分かれていて、大部分はスンニ派なわけですね。サウジアラビアなど多くのイスラムの国はスンニ派です。

池上 85%くらいがスンニ派ですね。

入山 そして15%がシーア派ですね。シーア派は、ムハンマドの従兄弟で娘婿のアリーの血筋をひくものが指導者になるべきだと考えています。大国であるイランはシーア派なので、イランがつくったヒズボラもシーア派です。イランはヒズボラをつかって間接的にイスラエルを攻撃している。

池上 そうです。フーシ派もシーア派です。イランが中東各地で支援する武装組織のネットワークのことを「抵抗の枢軸」と自称しています。これは要するに現在のイランの外交戦略で、中東地域のシーア派を糾合することによって、イスラエルやアメリカと対立しようというものです。それから、実はイラクのなかにもシーア派の武装勢力があります。イラクの国民は6割がシーア派で、選挙した結果、今、シーア派の政権なんです。ただし、イラクはアメリカとは対立しないという態度をとっています。

入山 なるほど。イスラム教はシーア派とスンニ派に分裂しているわけですが、対イスラエル、対アメリカということを考えると、イスラム勢力として組んでいくという可能性が出てきているということですか?

池上 そうですね。つまり、敵の敵は味方で、共通の敵があるなら仲良くできるという、こういうことです。


文化放送「浜松町 Innovation Culture Cafe」の音声はこちらからお聴きいただけます。
https://podcastqr.joqr.co.jp/programs/hamacafe

第五次中東戦争は起こるか? イスラエルのネタニヤフ首相の狙いとは?〉へ続く

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