〈トランプvsハリス アメリカ大統領選の雰囲気を一気に変える「オクトーバー・サプライズ」とは?〉から続く
「面白い」「すごく共感する」。経営者をはじめ、さまざまな人が絶賛している『宗教を学べば経営がわかる』。中東情勢やアメリカ大統領選について、共著者の池上彰さんと入山章栄さんが本の刊行を記念して特別対談を行った。*この対談は、文化放送「浜松町Innovation Culture Cafe」(9月9日放送分)を再構成したものです。
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入山 まさにこのへんがこれから伺いたいところです。繰り返しになりますが、トランプはプロテスタント、カマラ・ハリスもプロテスタントなんですけど、一方で先週もお話があったように、トランプは娘も娘婿も、孫全員もユダヤ人で、ユダヤ教徒である。そしてカマラ・ハリスも実は結婚したパートナーがユダヤ教徒であるというなかで、ユダヤ教と非常に関わりの深い2人が今大統領選を争っているという構図を池上さんはどういうふうに考えられますか?
池上 もともとユダヤ人というのは、ヨーロッパにおいてキリスト教社会で弾圧されたという歴史があるわけですよね。だから、ユダヤ人たちがアメリカに移った最初の頃は、結構職業差別などを受けていて、金融業では成功するけれど、それ以外の産業ではなかなか就職できない。そこで西海岸に行ってハリウッドで全く新しい映画産業を作り出した。だからハリウッドの映画産業って、脚本家や監督にユダヤ人が多いんですよ。
入山 なるほど。スピルバーグは典型ですが、ユダヤ系がハリウッドに多いのはそういう理由なんですか。
池上 そうなんです。そもそもユダヤ人たちが映画産業の基礎を築き上げたってことなんですね。一方で、福音派の人たちは、実はイスラエルを全面支持なんですね。どうしてかというと、聖書に書かれていることは全て真実だと考えているわけでしょ。旧約聖書のなかに、「神様がユダヤ人に約束の地を与えた」って書いてありますから、「それを守らなければいけないんだ」と考えています。
入山 そうか、福音派っていうのは、キリスト教の新約聖書だけじゃなくて、旧約聖書も信じている人たちだから、「約束の地であるカナンの地は当然ユダヤ人のものだ」と。なるほど!
池上 また、こう考えるんです。「イエスが天に昇っていった、いずれ戻ってくるといった。そのときに、あそこはユダヤ人の国だったじゃないか。だから、エルサレムをユダヤ人たちが守っていてこそ、イエスが再臨をするんだろう。だからユダヤ人の国を維持しておかなければいけない」と。
入山 なるほど! 福音派は、本当に聖書を信じているから、逆にユダヤ教と根本的に繋がってくるわけですね。
池上 そうなんですよ。だから、福音派でない人たちのなかでは、「ユダヤ人はやり過ぎだよな」とか、反ユダヤ主義の考え方もあるんですけど、福音派はユダヤを全面支持なんですよ。
ハリスならイスラエルはどうなる?
入山 そうすると、トランプが大統領になった場合は、今の中東情勢は、さらにアメリカがイスラエルを支持するという形になりそうですよね。旦那さんがユダヤ人のカマラ・ハリスが大統領になった場合は、いかがですか。民主党というのは共和党よりはイスラエルに対してはもう少し厳しいということだと思うんですが。
池上 カマラ・ハリスのご主人もユダヤ教徒ですけど、かなりリベラルなんですね。イスラエルのネタニヤフ首相のやり方に批判的だということですから、カマラ・ハリスが大統領になれば、イスラエルという国は支持するけれども、「ネタニヤフはやり過ぎだ。もっとパレスチナ人たちの人権を考えなさい」ということになって、かなり関係が悪化するでしょうね。あるいは、ユダヤの原理主義者が「パレスチナ自治区なんかないんだ。これは全部自分たちのものだ」と言って、どんどん勝手に入植しているわけですよね。その入植を止めようという動きが起きるんじゃないか、ということですね。
入山 なるほど。これ、中東にとってはどっちがいいんでしょう? イスラエルにとっては当然、トランプの方がいいということだと思うんですけど、結構難しいところですね。
池上 実はトランプが大統領だったときに、アラブ首長国連邦などがイスラエルを国家として承認したわけですよね。つまり、もともとイスラエルとまわりのアラブの国は対立していると言われていました。イスラエルができたとき、まわりのアラブの国がイスラエルを攻撃して第一次中東戦争が起きましたよね。あのとき、イスラエルと戦った国はイスラエルを認めたくないという意識が強いんですけど、それ以外のアラブの国は関係ないんですよ。むしろ、イスラエルはIT産業が進んでいるので、アラブの国には「IT産業を発展させるために、とにかくイスラエルとの関係を改善しよう」という動きが実はあるんだ、ということですね。
入山 なるほど。だからまさに、UAEなどは傍観していて、イスラエルともっと仲良くして経済的に潤いたいという状況なんですね。
池上 さらに、サウジアラビアですら、イスラエルを国家として承認しようという動きが起きてきた。ハマスが焦って、それをぶち壊そうという狙いもあって、イスラエルを攻撃したということなんですね。それによって、サウジアラビアがイスラエルとの関係を進めようということを止めてますから、ハマスの狙いは今のところ成功しているということですね。
入山 なるほど。複雑だな。
池上 いわゆる中東問題というのは、イスラエルとアラブ諸国の対立だとは、もはや言えなくなっているということですね。
大統領選挙の日程のひみつ
入山 なるほど。最後に池上さん、どうですか。今回もまたアメリカ大統領選挙の見どころというか、ポイントはどうですか。まず1つは討論会が相当面白くなりそうだと思いますが。
池上 今回のアメリカの大統領選挙って11月5日の火曜日なんですよ。中途半端だと思いません?
入山 そうですね。なんで火曜日なんでしょうね。
池上 これは規定がありまして、アメリカ大統領選挙って4年に1度で、11月の第1月曜日の翌日って決まってるんですよ。火曜日じゃなくて、「第1月曜日の翌日」になっています。
もともとアメリカで大統領選挙をやりはじめたとき、アメリカは農業大国でした。10月でだいたい刈り入れが終わって、感謝祭が終わる11月の下旬になると、冬支度をしなければいけない。11月の上旬は農閑期だから、選挙をこのときにやろうじゃないかということになった。でも、キリスト教の国だから、日曜日は教会に行く日で、日曜日に投票できない。じゃあ、月曜日か。でも当時はまだ交通機関が発達していなかったので、月曜日に投票に行くためには日曜日に出かけなきゃいけない。あるいは、選挙管理委員会の人は日曜日から働かなければいけない。だから火曜日だよねっていうことになった。じゃあ、「第1火曜日」にすればいいと思いますよね。でも、第1火曜日にすると11月1日になってしまう可能性があります。11月1日というのは、諸聖人の日というキリスト教にとって大事な日なんですよ。だから11月1日じゃダメなんですよ。
入山 すごいですね。選挙の日程も、宗教的な理由で決まっている。
池上 そうなんです。結果的に11月2日以降の火曜日にするために、「第1月曜日の翌日」と決まっているんです。また、第2火曜日にすると、11月の中旬になっちゃって冬支度に影響が出るから。
入山 面白い! 第1火曜日じゃなくて、第1月曜日の翌日。というわけで、日程も気にしていただければということで、今回本当にありがとうございました。
池上 ありがとうございました。
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https://podcastqr.joqr.co.jp/programs/hamacaf
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