ガールズバンドGacharic Spinのマイクパフォーマーで、ラジオのレギュラー番組を3本も持ち、『現代用語の基礎知識2025』に「2024年のキーパーソン」として紹介されたアンジェリーナ1/3(通称アンジー)。そのスピーディーで濃厚な22年間をさらけだした初の自伝的エッセイ『すばらしい!! 日々!』より、「ラジオ界のお兄ちゃん」神田伯山さんとの出会いと交流を綴った箇所を抜粋し、紹介する。(全2回の1回目/続きを読む)
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ラジオのレギュラーは現在3本
ラジオパーソナリティなど、バンド以外の、一人での活動もおかげさまでとても増えてきた。
いま文化放送で『アンジェリーナ1/3のA世代!ラジオ』、TBSラジオで『アンジェリーナ1/3 夢は口に出せば叶う!!』、TOKYO FM /JFNで『SCHOOL OF LOCK!』というレギュラー番組をやらせていただいている。
あたりまえだけど、ラジオは音楽とは全然ベクトルが違う。使う頭が違うし、言葉が違う。
なにより、バンドだったら仲間がいるから、仮にミスをしても、転んだ私にみんなが手を差し伸べてくれるし、それでひとつの塊になれたりする。でもラジオは6人いるメンバーの中で私一人だけバンドの名前を背負って出なきゃいけない。だからヘマすることは許されないし、ラジオで私に興味を持ってくれた人たちを、バンドに繫げられなきゃ意味がないので、責任を持ってやらないといけないと、いつもすごく考えている。
そもそも学生時代にトークがうまいなんて言われたこともないし、最初にラジオに出たときの放送は、「もうやめてー! 聴かないでー!」くらいの出来。
「こんばんは⤴ アンジェリーナ1/3です⤴」
すごく緊張してたこともあるけど、なんか可愛く思われようと演出を入れていて、いまとは全然喋り方も違う。
いまはTBSラジオと文化放送のスタッフさんたちに、お尻を叩かれて、なんとか形になってきたと思う。
自分でも、オンエアされたラジオの同録と、その前のノー編集バージョンを必ず送ってもらって、聴き比べて反省会をしている。それで「こういう言い回しにすればよかったな」などと反省ノートにまとめたり、逆に「あ、ちゃんとできてる、いい感じになってる」とモチベーションを上げたりしている。
褒めてくれる方もいるけど、自分的にはまだまだ。面白く編集してくれるスタッフさんの功績が大きいと思っている。まずはエピソード収集力とトーク力をもっと磨いて、もっと愛される番組に育てていきたい。
衝撃的だった神田伯山の「中村仲蔵」
私がラジオパーソナリティになったのは、ラジオ日本で『アンジェネレーションラジオ』という番組を、2021年4月から1年間やらせていただいたところから始まった。
このラジオでリスナーの方から、「神田伯山さんの講談が素晴らしいので、アンジーにも見てほしい」というメールをいただき、実際に伯山さんの「中村仲蔵」を映像で見てみることにした。
これがすごい衝撃だった。
江戸時代、芝居の世界は厳しい階級社会。そんな世界でいちばん下の位だった中村仲蔵が、狂気じみた芝居への執着でどんどん出世し、ついには最高位の「名題」に上り詰める。しかしあるとき、中村仲蔵に本筋に関係なく見所もない役が振られてしまう。さすがの仲蔵もその役作りを諦めかけたとき……という落語でも有名な噺。
これを見た瞬間、「表現」をする人間には絶対に響く話だと思った。それを神田伯山さんが見事に「表現」していて、とにかく興奮状態のまま、初心者ながら次のラジオで30分、熱く感想を喋った。
このときは伯山さんも私同様エゴサをするタイプとは知らなかった。
アンジーは俺の妹みたいなもんだ
伯山さんがご自身のラジオ『問わず語りの神田伯山』で、「アンジェリーナ1/3っていう、ロックやってる10代のピンクの髪の女の子が、俺の講談で涙流したらしい」と、まさかの私の話をしてくれた。
えええええ、マジで!?
こうなると、もちろん次のラジオは感動と興奮をそのままぶつけることになる。
「伯山さんが私のこと話してくれた! 私の名前言ってくれた! すごくない!? てかアンジェリーナとか伯山さん横文字使うの?」
するとエゴサ伯山さんには、もちろんそれも耳に入って次の『問わず語り』で笑って一言。
「あいつ、俺のラジオまで聴いてるのかよ」
と、白ヤギさん黒ヤギさんみたいな、ラジオでのキャッチボールが続いていくこととなった。
それから半年くらいして、ついに伯山さん本人が私のラジオにゲストで来てくださった。熱烈に伯山さんファンを語っていたらご本人降臨。ただただ、夢みたいな時間だった。
このとき、「喋り方とか人への言葉の伝え方はどうしたらいいでしょう」と聞いたら、「アンジーが凝り固まらずに、思ったままを飾らずに伝える姿勢をみんなは待ってるよ」なんて本当にあたたかい言葉をいただいて、思わず収録中に泣いてしまった。
伯山さんって、毒を吐くイメージが強いけど、こんな優しくていい人なんだ。それをもっと『問わず語り』でアピールすればいいのにとも思ったりしたけれど。
その収録の後で伯山さんがご自分のラジオで、「アンジーは俺の妹みたいなもんだ」とまで言ってくれた。
そこからは公に兄妹と呼び合っている。
思わず叫んだ「おまえ誰ーっ!?」
私のラジオ日本の番組が終わってしまって悲しんでいた頃、伯山さんが新型コロナ陽性になってしまった。私を気にしてくれてたこともあってなのだが、まさかの連絡が来た。
「僕の番組の代役をやってくれ」
いまなんとおっしゃいました?
伯山さんの『問わず語り』の代役をやってくれ? 収録は明後日!?
「わかり……ました」
状況を冷静に判断するどころか、もう悩んでる暇もなくてピンチヒッターとして出ることとなった。
「子供の頃、私にとってラジオは大人の本音が聴ける場所でした。いまならネットで本音は溢れていますが、人に届く本音、言葉を選んだ本音を聴けるのは、私にとってはラジオだけだったと思っております。本日、伯山先生の代わりに問わず語りでお話しさせていただきますのは、Gacharic Spinのアンジェリーナ1/3です。
……………………おまえ誰ーっ!?」
2022年4月8日、『問わず語りのアンジェリーナ1/3』オープニング、私の本音、というかリスナーの皆さんの本音を叫ばせていただいた。
エゴサ好きな私もSNSの反応が怖くなり……
『問わず語り』に出て、事の重大さに気づいたのは収録を終えた後だった。
いや待てよ。冷静に考えたら私もめちゃくちゃ『問わず語り』が好きだし、伯山さんがラジオでやってることってすごく特殊だし、鬼のように耳の肥えてるリスナーしかここにはいない。
なんで私、普通に出るって言っちゃったんだろう。これでコケたら、せっかくオファーしてくれた伯山さんの顔も潰すことになっちゃう。
エゴサして「今日は伯山さんじゃないなら聴くのやめようかな」という書き込みも見てしまったから放送が気が気じゃなくて、いざ始まったらさすがにエゴサ大好きな私も、SNSでの反応を見るのが怖くなってしまった。
でもオンエア中にどんどん、「待てこいつ誰だ」「面白いじゃないか」って書き込みがばーっと出てきた。1割くらいは「今日面白くない」「若い子が頑張ったくらいの完成度だろ」みたいな意見があったけど、9割方の人は優しくて受け入れ態勢になってくれて、それが本当に嬉しくて救われた。
実際にネットだけでなく、業界の方々にもすごい反響で、それがいまのラジオのレギュラーに繫がっている。
ラジオのおかげで人生が変わった
伯山さんは、「上の世代の人間は、下の世代の子たちをどんどん世に出してあげなきゃいけない、それがやるべきことなんだ」って、いつもおっしゃっているんだけど、まさにそれをやっていただいた。
その頃、私の知名度なんか本当にないし、 誰がアンジーのことを知ってるんだよくらいな感じだったけど、当時から「Gacharic Spinを一人でも多くの人に広めたいからメディアに出る」というスタンスでやってきた。
伯山さんも「講談を広めたいからメディアに出る、自分がメディアに出て少しでも気になってくれた人を講談に引っ張り込みたい」と考えてる人。そのスタンスの部分で伯山さんが共鳴してくれて、「アンジーのためにやれることをやりたいから」と代役で指名してくれたらしい。
ありがたすぎる話。
そして実際にここから、大げさでなく私の人生は変わっていった。
ラジオをやってきて、バンドとの相乗効果が出てきているのがいちばん嬉しい。
ラジオが好きな方って熱い方が多い。他のメディアに比べて、姿は見えないのに距離が近いし、がっと集中して好きになってくれる。伯山さんに、「ラジオを大切にした人が出世する」と言われたこともすごく心に残っている。
ラジオからバンドのファンに繫げるのは難しいかも? と思っていた時期もあったけど、その伯山さんの言葉をずっと大事に嚙みしめながら向き合ってきたら、リスナーの方がライブに来てくれるようになったり、CDを買ってくれるようになった。
ラジオの仕事は大好きなので、今後も改編期を絶対に乗り越えて、ずっと続くといいな。
〈「お父さん、ちゃんと笑って私、お別れできたよね」。ピンク髪のアンジェリーナ1/3が綴った中1のとき死別した父との別れの瞬間〉へ続く
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