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「最初から結婚目当てで近づいた」が…スキンシップは皆無、ハグは「気持ち悪い(笑)」能町みね子が語る、ゲイの夫との“恋愛抜きの結婚生活”

「最初から結婚目当てで近づいた」が…スキンシップは皆無、ハグは「気持ち悪い(笑)」能町みね子が語る、ゲイの夫との“恋愛抜きの結婚生活”

岡村 靖幸

『幸福への道』 #1

出典 : #文春オンライン
ジャンル : #ノンフィクション

 エッセイストの能町みね子さんは、ライターのサムソン高橋さんと恋愛の絡まない「(仮)」の結婚をして、その生活を元にした自伝的小説『結婚の奴』を上梓した。

 ここでは『久保みねヒャダこじらせナイト』などを通じて、能町さんと昔からの知り合いであるという岡村靖幸さんの『幸福への道』から二人の対談の一部を抜粋して紹介。岡村さんが「結婚(仮)」に至るまでの経緯や生活についてじっくり訊いた。(全4回の1回目/続きを読む

能町みね子さんと岡村靖幸さん ©文藝春秋

◆◆◆

恋愛を絡めるからダメになる

岡村 「(仮)」の結婚ですか。

能町 法的にはしていないので。

岡村 法的にはしたくない?

能町 いえ、「していい」と思っていたんですが、相手はそうでもないので。同居してる感じですね。

岡村 心地いいですか?

能町 快適ですねえ。こんなにいいなら、みんなどんどん結婚すればいいのにと思うくらい。

岡村 へえ~。ゲイの方ですよね? お相手は。

能町 誰かと一緒に住もうとするとき、恋愛を絡めるからダメになるんだと思ったんですね。好きな人と一緒になる、恋愛結婚こそが素晴らしい、そういう思い込みがうまくいかない「元凶」じゃないかと。それで、自分の恋愛対象ではなく、向こうにとっても私は対象にはならない人を探そうと。ならばゲイだと。ゲイの知り合いの中から気が合いそうな人をということで、パッと思いついたのがサムソン高橋さんだった。言ってみたらどうにかなった感じです(笑)。

岡村 じゃあ、ルームシェアみたいな感覚なんですか?

能町 それよりも密です。ご飯も作ってもらってますし。昭和の家庭の男女逆バージョンみたいな。

岡村 お互いに対する情は?

能町 情……どういう種類の?

岡村 相手が怪我したり病気したりすると心配になるとか。

能町 まあまあですかねえ。そもそも密に連絡を取り合うというのがなくて。ないというのは、普通の夫婦ほどはないということで。私は仕事でも遊びでも1人で旅行することがたまにあるんですが、そういうときはほとんど連絡を取らないんです。メールも送らない。よっぽどのことがない限りは。

「恋愛や性の話を聞きたいんですけどね」

岡村 ルームシェアより密で、相手を思いやる感情がまあまああって、でも恋愛ではない。家族みたいな感じってことですか?

能町 結果的に。向こうが家族っぽくなっちゃったというか。私はサムソンさんの恋愛や性の話をいろいろ聞きたいんですけどね。

岡村 彼の恋愛を知りたい?

能町 彼はゲイだし、それなりに遊んでる人。いわゆるハッテン場とか行くんですよ。私はそういうカルチャーを知らないから、聞きたいんです。ハッテン場とはどういう場なのか、どういうことが起こるのか。行ったんだったら、どんなことがあったのか。でも、彼は言いたがらないんですよ。それを、他の人がなぜと問い詰めたら、「お母さんや妹に言うような気分になるからすごいヤダ」って(笑)。そういうところはあるんだなって。

©文藝春秋

岡村 能町さんにとっても、彼は親や兄弟のような存在ですか?

能町 どうだろう……。私は自分のセックスの話くらいは彼に言ってもいいと思ってて。実際、言ったこともあるんです。すると「そんなこと言われても」って(笑)。私は、向こうが家で素っ裸でいたとしても平気なんですけど、それもイヤみたい。私もさすがに素っ裸にはなりませんけど、そこはそういう感じみたいです。

岡村 スキンシップはあります?

能町 皆無ですね。

岡村 ハグとか。

能町 気持ち悪いです(笑)。

岡村 握手は?

能町 握手ですらした記憶がない。でも1回ベロンベロンに酔っ払って、他の人が大勢いるときにキスしたことはあるんです。それは周りがおだてたからノリでやっただけで。普段でそれはちょっと考えられないですね。親兄弟でスキンシップのない人って多いじゃないですか。そういう感じでしょうね。

岡村 結婚してどのくらい経ちましたか?

能町 1年半ぐらいです。

岡村 泣いたところを見せたことはありますか?

能町 あります。私はあります。人間関係がうまくいかないことをグチってそのまま泣いたんです。

岡村 そのときサムソンさんは?

能町 慌ててました(笑)。

「一緒にいて不愉快なことがない」健康的な生活

岡村 どういう方なんですか、サムソンさんは?

能町 もともとゲイライターで。ゲイ雑誌の編集やゲイビデオを制作してたんですけど、いろいろあって、辞めて。それからフリーでライターをやりつつ、いまは昼のお店でパートもしてます。

岡村 何歳なんですか?

能町 51、もう少しで52。本人があんまり働く気がなくて。野心がほぼないので、極力働きたくないみたいで。ヒマがあるとすぐ海外に1人で行っちゃうんです。

岡村 趣味は合いますか? 生理的な部分とかは。

能町 趣味は合います。好きなものより嫌いなものが一緒のほうがいいってよく言いますけど、茶化したくなる対象がだいたい一緒です。毎朝、なんとなくテレビを観るんですが、ご飯食べながら朝のヌルめの番組を、主に私がディスりながら茶化すんですよ(笑)。

岡村 ははは(笑)。生活のサイクルはどうですか? 何時に起きて何時に寝るみたいなのは。

能町 彼と生活をともにすることで、それはすごく修正されました。1人のときは、明け方に寝て、昼前ぐらいに起きて、何も食べずに出かけて、だったんですけど、いまは遅くとも深夜1時2時には寝て、朝は8時9時には起きて、彼が作った朝ごはんを食べて。

岡村 健康的ですねえ。え、寝室は一緒ですか?

能町 別です。フロアーが違うんですよ。サムソンさんが以前買った築50年の狭小3階建て住宅をリフォームして住んでるんですが、私の部屋は3階で、サムソンさんは2階。朝、2階でごそごそ音がして、ああ起き出したなと思うと、私も降りていく。2階はダイニングも兼用なので。あと、屋上がサムソンさんのスペース。彼はバラを大量に育ててるんです。

岡村 へえ~!

能町 まるでバラ園なんですよ。私は一切手出ししないですが。

岡村 2人で外食をしたり映画を観に行ったりとかはありますか?

能町 外食は月に1~2回くらい。映画は……。ああ、何回かありますね。旅行もあります。

岡村 なんだ、すごく仲良しじゃないですか(笑)。

能町 気は合うんですよ。一緒にいて不愉快なことがないし。もともと私は彼が書く文章がすごく好きで、ツイッターもずっと見てたんです。趣味とかもいいセンスだなって。一回り上の人に対してエラそうな言い方ですけど(笑)。

「結婚するために近づきました」

岡村 友人として戯れるのではなく、「一緒に住む」に至るまではどんな感じだったんですか?

能町 元はというと、友達ですらなかったんですよ。知り合いではあったんですけど、何人かいる中で、挨拶はしたことはあるっていう、その程度。何かのキッカケで彼のツイッターを見てみたら、面白かったのでフォローして。向こうは向こうで私の本を読んでいたらしく、面白いと思っててくれていたみたいで。それから4~5年は何もなかったんです。お互いにSNSでときどきやりとりする程度。会うわけでもなく。

岡村 ネット上だけでの交流。

能町 そうです。それで私が、「結婚しよう」と決めて、誰かいないかなと思ったときに、パッと思いついて。最初から結婚目当てで近づいた感じです(笑)。

岡村 へえ~!

能町 だから、「友達になろう」という気もそもそもなかったんですよ。いきなり「この人と結婚したい」と思って近づきましたから。

岡村 でも、いくら興味を持ったとはいえ、一緒に住む、結婚する、となると、生理的なものを共有することになるわけでしょ。そこは大きな賭けじゃなかったですか?

能町 だから、慎重すぎるぐらい慎重でした。ツイッターでいきなり、「結婚前提で付き合いたい」みたいなことを、冗談ぽく言ったんです、最初は。すると向こうも、ノリで「いくらでもどうぞ」みたいに返してきたんで、この感じでジワジワいけばイケるんじゃないかと(笑)。で、ご飯を食べに行って、共通の知り合いがいる飲み会に行って、家に行って。じわじわと、ホント、一歩一歩詰めていって。向こうにそこまで拒否感ないなと思ったし、こっちもイケるというのが、ならし運転しながらだんだんわかって。最初に思いついてから同居するまで1年半。そのうち1年ぐらいは週1で彼の家に通ったんですよ。ホントに付き合ってるかのように(笑)。

「それなら女性はみんな子供が作りたくて仕方がなくなるはずだけど…」恋愛抜きの結婚をした能町みね子が考える、人が「子供を欲しがる」理由〉へ続く

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