
- 2025.03.13
- 読書オンライン
「ねぇ、秋場所、どうしたの?」「バケモノだ!」小学生から介護に触れて20年…メイプル超合金安藤なつ(44)が出会ってきた“印象的な施設入居者”たち
安藤 なつ
出典 : #文春オンライン
〈「いやあ、ここは最高です。値段も最高級の施設のようですがね(笑)」作家・筒井康隆(90)が終の棲家に“高齢者施設”を選んだ“納得の理由”〉から続く
親が高齢になっていくにつれ、高齢者施設に預けるかどうかを考える機会が増えるはず。介護現場歴20年で、お笑い芸人として活躍しながら、2023年に介護福祉士の資格を取得した安藤なつさんに家族を施設に預ける際の選択や介護の仕事とそのやりがいについてお話をうかがった。

◆◆◆
親の介護は 介護のプロに任せていい
高齢者施設は増えてきましたが、“高齢になったり介護が必要になったりした親の面倒を看るのは家族の役目”と考えている人、親を施設に預けることに罪悪感を感じている人は、まだ多いと思います。
でも、「そんなことはない!」と声を大にして言いたいです。
家族のことは自分たちで看る、それはとてもすてきなことだと思います。家族だからできることもあると思います。
一時期は、親の介護のために離職する人が少なからずいました。介護休暇制度などもできましたが、どの職場でも取得できるとは限らないので、まだ介護離職も現実に起こっているのではないでしょうか。
日本には介護は家族でするのが当たり前という風潮があり、ちょっと閉鎖的だなと感じます。

私は、こうした“介護が必要になった家族を自分たちで看なければ”という固定観念を変えていきたいと思っています。
自分たちで看たいという思いは、とてもよく理解できます。でも、無理はしてほしくないのです。
介護は始まったら、いつまで続くのかわからず、ゴールが見えません。介護には時間が取られますし、体力も使います。長引くほど看る側も看られる側も、互いに余裕がなくなって疲弊してしまうし、介護する方の仕事や暮らしなどにも影響が出てしまうでしょう。家庭内がギスギスしてしまうという声も数多く聞きます。
発言にしても行動にしても、他人だと許せるけど親だと許せないことっていろいろありますよね。家族だから遠慮のない言葉を発し合うこともあるでしょうし、なんでこんなことぐらいできないんだっていう苛立ちも起きるでしょう。だんだんいろいろなことができなくなっていく様を見ていくのは、やっぱり辛いじゃないですか、家族としては。
だからこそ、介護職を頼っていただきたい。介護職は知識と技術を学んだうえで介助をするプロです。仕事としてその方のことを看ることができます。
頼ることを躊躇しないでほしい
とくに認知症を発症している場合は24時間体制で見守っていく必要がありますから、ご家族で世話をするには限界があると思います。親を看ていると、かならず疲弊して世話をする人の生活が立ち行かなくなってしまいます。
“もう限界!”という状況になってから、施設を探したりヘルパーを頼ったりということも多いようですが、もう少し早い段階で誰かに頼める社会になればいいと思います。
ご家庭によってさまざまな事情があるとは思いますが、気持ちに余裕があるうちのほうがいろいろな判断をしやすいでしょう。ギリギリまで我慢せず、施設に預けることや介護職に頼ることを躊躇しないでほしいです。
”介護って大変”は、親を看なければと思うことから生まれる感情
「介護って大変ですよね」と言われることが少なからずあります。でも、それは親を看なくてはならないと考えている方の思いなんですよね。経験もなく、仕事をしながら、家庭を守りながら、介護をするとなれば、確かに大変なご苦労だと思います。それを想像すると、「介護って大変」と思うでしょう。

でも、介護職にとって介護は仕事です。どんな仕事にも、やりがいや楽しいことがある反面、難しいことや大変なこともついてきます。同じことです。だから介護という仕事が特に大変だとは思いません。
私は好きでやっている仕事なので、「ドンとお任せください!」という気持ちです。私だけでなく、多くの介護職の人たちはそういう気持ちなんじゃないでしょうか。
利用者さんにはそれぞれの人生があり、普段の発言や行動には経験してきたことが混じってきます。昔あの仕事をしていたからこういうふうに行動しているんだなと予測して対応することも多いのですが、これはその方の人生を垣間見られることでもあり、職業としての楽しさがあります。また、利用者さんの発言や行動を理解して接することは、気持ちよく過ごしていただくことにつながるので、やりがいにもなります。
たとえば、その方がもとは学校の先生で、どこかに行こうとしていたのなら、「そろそろ授業が始まる時間ですね」などと話しかけると、思い出話を楽しく話してくれるようなこともあります。
利用者さんに気持ちよく過ごしてもらうために、相手がしたいと思っていることを読み取ってあげる、ほんの小さな変化も見逃さないという意識をもって働いている介護職は多いです。
利用者さんに接していく中で、こんなすてきなところがあるんだとか、こういうかわいらしい面があるんだということを見つけていく楽しさもあります。
だからこの仕事が好きなのだと思います。
介護職はまっすぐな「ありがとう」を受け取れる
介護職は、看護師さんなどと同じように、相手ととても近い距離で仕事をします。その分、相手が発する言葉も感情もストレートになりますから、ダイレクトに伝わる刺激的な仕事という面があります。もちろん辛い言葉や悲しい言葉を言われることもあります。でも、この方は今そういう気持ちなのだなと受け止めていきます。
そして何より、感謝の言葉は、気持ちがまっすぐに伝わってきます。
社会でさまざまな人と接する中では、社交辞令というものがあります。それを否定するつもりはありませんが、介護で利用者さんに接して「ありがとう」と言ってもらうときは、決して社交辞令ではありません。そんなときは素直に嬉しいです。
相手の話を否定せず、のっかっていく
高齢の利用者さんには認知症の方もいます。認知症の方に接するときは、絶対に相手の発言や行動を否定しません。
たとえば、「これから家に帰ります」と言って施設から出てしまうような場合、「ダメだよ、ここが家でしょう」とは言いません。「そうなんですね。じゃ、一緒に行きましょうね」と言って時間の許す限り、同行します。
幻影などが見えるようになる人もいるのですが、「変なものがいるんだけど」と言われたら、「何も見えませんよ」ではなく、「何でしょうね。ちょっと見てきますね」と言って見に行きます。
認知症の方の発言や行動をすぐに否定してしまうと、相手は混乱してしまうのです。話を合わせるというより、むしろ“話にのっかる”という感じですね。話にのっかって、コミュニケーションをとっていきます。介護職の人はみんなそうなんじゃないかなと思います。
“話にのっかる”という意味では、思い出深い出来事があります。
お相撲が好きな認知症のおばあちゃんと仲良くなりまして、一緒にテレビの相撲中継を見ていたときに「ねぇ、秋場所、どうしたの?」って言われ、「膝を怪我したから、今は休場中なんだよね」と返したりしていました。どうもそのとき、私はお相撲さんだと思われていたようですね。
そのおばあちゃんの介護で、あるとき、夜間のおむつ交換をしに行ったんです。そうっとドアを開けて部屋に入って、そうっと布団をめくって、寝ている間におむつを交換するという巡回です。いつも通りにやろうとしたら、何故か目がバチッと開いて、次の瞬間、「バケモノだ!」って叫ばれてしまったんです。
その瞬間、私、ちょっと笑ってしまったんですよね。
客観的になれば、「バケモノだ」って暴言じゃないですか。でも私は、暴言とはとらえなかったんです。思わず笑ってしまったのは、確かにそうだよなっていう共感の笑いでした。夜中に眼が覚めて目の前にこんなでっかいのがいたらそう言うよな、きっと自分も同じようなことを言うだろうなってなんか納得してしまいまして。

そこで、「いやどうも、バケモノですけれども~」みたいに話にのっかって、「おむつ交換の練習をしに山から下りてきたんですけど、よろしいですか」「私の腕前を見てもらえますかね」というような感じで話しかけたらなんだか落ち着かれて、おむつを交換をさせてもらうことができました。きちんと仕事ができて、気持ちよく寝てもらえたということが、自分にとっての達成感になりますね。
そして、こういうやりとりも面白いし、楽しいと思っている自分がいます。
信頼できる介護のプロを頼り、コミュニケーションをとって
一旦施設に預けると決めても、どんなところだろうか、どんな人が看てくれるんだろうか、親は安心して過ごせるだろうかなど、心配は尽きないと思います。
数多くの施設からひとつを選ぶには、さまざまな条件があると思います。私自身は高齢者施設を選んだ経験がないのですが、ひとつだけ周りに聞いた意見をご紹介しておきます。
施設の場所や施設内のようす、スタッフの皆さんの雰囲気など、いろいろチェックするポイントはあると思いますが、まずは尿や便などのアンモニア臭が残っていないかということを意識するようです。もし、アンモニア臭がするのであれば、基本的な掃除が行き届いていないくらい人手が足りていないのだなと判断できるということは聞いたことがあります。
私が思うのは、相対してみて、気持ちよく話せるとか、親身になって聞いてくれそうと思えるスタッフに出会えるといいなということです。
介護職としては、利用者さんのご家族から性格や趣味、これまでの生活ぶり、仕事歴などを伺うことで、自分たちの経験をふまえつつ、その人に合わせたお世話がしやすくなります。ご家族のかたにとってコミュニケーションを取りやすい人がいいですね。
もちろん、入居されるご本人が親しみやすそうだと思える人であることも大切だと思います。
入居前にはケアマネージャーさんともじっくり話をしますが、介護のプロの視点を得ることで、家族だけで看る場合とはかなり変わってくるものです。介護のプロと連携することで、利用者さん自身が施設で暮らしやすくなるでしょうし、ご家族も安心できて、気持ちに余裕が出てくると思います。
温かな笑い声のある 高齢者施設が増えるといい
入居したら、そこが生活の場になるのですから、快適に過ごしてほしいという視点から、ひとつ、私なりにちょっと考えてみた高齢者施設の形があります。
私は音楽が好きなんですけど、メタル、J-POP、テクノ、クラシックなど、好きな音楽のジャンルごとに生活の場を選べる高齢者施設があったらいいな、なんて思います。
音楽は刺激になると聞いたことがあるので、好きな音楽を聞いて過ごして、歌ったり、ときには踊ったりしてもいいですし。交流会があってもいいですよね。クラシック棟の人もたまにメタル棟へ行って刺激を受けるというのもアリかも。スタッフも自分の好みの音楽がかかるところで働くのは、毎日がより楽しくなるような気がします。もちろん、音楽よりも読書が好きという方が過ごせる読書棟なんかもいいと思います。
それから、高齢者施設でもこぢんまりした飲み会があってもいいんじゃないかなと思います。季節ごとにイベントなどはいろいろ開催されていると思いますが、もっと日常的な、軽い晩酌のようなものですね。入居前に晩酌を欠かさなかった人は、入居後に飲めなくなっているとしたら、楽しみをひとつ奪われてしまったようなものですから。もちろん、利用者さんの健康面をクリアしたうえでということですけれども。
高齢者施設に入居しても、毎日を楽しく、少しでも笑顔になって過ごしていただきたい。温かな笑い声が絶えない施設が増えるといいなと思います。そして預けるご家族にとっても、親が毎日を気持ちよく過ごしていることを感じて、安心していただきたいです。
以前、あるテレビ番組で、迷い歩きをする認知症の方にとことん付き添って歩く高齢者施設があることを知りました。安全を確保したうえで本人の気が済むまで付き合って、一緒に歩きながらいろいろな話をされるのです。とてもいいなと思います。ひとつの理想ですよね。ただ、こうした対応は人手が足りていないとできません。介護職がもっと増えたら、もっともっといろいろなことができるのにと思います。
取材・文◎佐藤紀子
-
「いやあ、ここは最高です。値段も最高級の施設のようですがね(笑)」作家・筒井康隆(90)が終の棲家に“高齢者施設”を選んだ“納得の理由”
2025.03.13読書オンライン -
カズレーザー、北方謙三に痺れる!『黄昏のために』刊行記念対談「ハードボイルドの流儀」
-
妻から責められ夫婦喧嘩が絶えず…“認知症による徘徊”が続いた94歳男性が夫婦関係を改善できた理由
2024.11.12読書オンライン -
「お母さんは獣になってしまったのか」手を噛まれた娘がショックを受ける一方で…認知症の母に父がかけた“想像力がありすぎる”驚きの一言
2024.11.30読書オンライン -
103歳、一人暮らし。石井哲代さんが語る「らくに老いる」コツ「体は思うように動かんけれど…」
2024.11.20読書オンライン -
患者さんのQOLを決める“家族の力”
2024.05.17読書オンライン
-
『高宮麻綾の引継書』城戸川りょう・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2025/03/14~2025/03/21 賞品 『高宮麻綾の引継書』城戸川りょう・著 10名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。
提携メディア