
- 2025.04.11
- 読書オンライン
「平時から電力グリッド構成に準備が必要」“ヤシマ作戦”なぜエヴァ初号機に撃たせる必要があったのか?
小泉 悠,高橋 杉雄,太田 啓之,マライ・メントライン
『ゴジラvs.自衛隊』より その2 前編
第5使徒ラミエルを倒すため、日本中の電力を集めた陽電子砲で狙撃――『新世紀エヴァンゲリオン』の人気エピソードと知られる「ヤシマ作戦」。なぜエヴァンゲリオンに撃たせる必要があったのか? 第三新東京市のインフラに関わる事情とは? 新刊『ゴジラvs.自衛隊 アニメの「戦争論」』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

◆◆◆
「トゥールハンマー」「グランドキャノン」「ソーラ・レイ」……巨砲兵器の戦場
高橋杉雄(以下、高橋) アニメ独特のあるいは創作独特の概念としての巨砲兵器、それこそ「トゥールハンマー」(『銀河英雄伝説』)とか「波動砲」(『宇宙戦艦ヤマト』)とかは好きなんです。
小泉悠(以下、小泉) 巨砲って、いわゆる“ビッグガン”てこと?
高橋 巨神兵だってそうじゃない?
小泉 ああ、そうですね。「なぎ払えー!」
高橋 ただあんなものリアルにないわけですよ。それこそ黄海海戦の三景艦の32センチ砲とか、46センチ砲(「大和」型戦艦)とかはあるかもしれないけれど。「デス・スター」(『スター・ウォーズ』)とか、「グランドキャノン」(『マクロス』)とかね。

小泉 飛行機として異例の巨砲といえば屠龍(日本陸軍、二式複座戦闘機)とか。
高橋 ああ屠龍、うん。
小泉 AC-130とか。
高橋 AC-130は、“巨”じゃないけど。
太田 「ガンシップ」ですね……。

高橋 「キ109」(日本陸軍の試作戦闘機)は、75ミリ砲か。
小泉 あとはあれか、北朝鮮の「コクサン」榴弾砲とか。170ミリ! でもあれも203ミリに比べて別に大きいわけでもないか。
太田啓之(以下、太田) 「ソーラ・レイ」(『機動戦士ガンダム』)も巨砲ですね。
高橋 太陽電池でエネルギー取った巨大なレーザーですもんね。そのあとはこれがコロニーレーザーになって。1発だけっていうのは、物語が生まれますよね。ただ、宇宙空間の広さに比べるとスペースコロニーの直径ってそんなに大きいものでは当然ないんですよ。だから、使い方が限定される気はしますね。ああいう艦隊が集結しているとか、……小説版だとア・バオア・クーを狙い撃ちするんですね。
太田 味方もろとも焼き尽くす。
小泉 再装填ができない超強力兵器って、じつはICBMとかに近いですよね。
高橋 ICBMは1発だけじゃないので……。
小泉 ではありますけど。次がない、破滅的攻撃を行う兵器って考えると、そういう使い道としてはありかもしれない。
高橋 うーん、あ、マクロスのグランドキャノンも1発だけでしたね。第二射したっけ?
太田 あれは放射角が変更できるからなぎ払えるんですよね。そのへんは波動砲の弱点を……、波動砲ってわりと簡単に避けられそう(笑)。
高橋 しかも宇宙空間で点だから。拡散波動砲にしても。使う局面って、けっこう限定されてますよね。
太田 そうなんですよ。最初に、浮遊大陸を吹き飛ばしちゃって、「これは慎重に使わないといけない」というセリフがあって、そういうモラルみたいなものがあったんですよ。
高橋 相手が「ゴルバ」みたいな要塞ならともかくね。艦隊相手にはね。
太田 だから第二作では拡散波動砲が出てくるんでしょうけどね。にしてもやっぱり宇宙空間で、それほど使い勝手はいいとは思えませんね。
高橋 そのへんの描写が佐藤大輔の『地球連邦の興亡』ですかね。赤外線で探知して、相手のビーム兵器に対してガスを放出して拡散させて……、すごいじっとりと描写してるんだよね。
太田 『ガンダム』では、ビーム攪乱幕とかソロモン戦でやってますね。
「使徒迎撃専用要塞都市」のナゾ
小泉 『エヴァ』のヤシマ作戦も巨砲かな。
高橋 日本中の電気を集めるって、蓄電機能もそうだけど、それだけの電流が通せるものがあるかどうか。
小泉 ってことですよね。平時の電力グリッドの構成にかなりよるのではないかという気がします。
太田 ああいう世界ですからね。破滅を何回も経験しているから、準備しているのかもしれない。
小泉 いや、そもそもビルが出し入れできる時点で普通のインフラではないですからね。
太田 完全にあれは要塞都市ですから(笑)。
──ビルを出し入れできる意味はあるんですかね? いつも思うんですけど、落ちてるし。
高橋 あれ、「使徒」が来た時に、逃げなくても地下に建物ごと逃げられるってことなのかなと思ったら、どうもそうでもないし。
小泉 逆にエヴァ用の武器ビルが「にょーん」と出てくる。あれはどういう意図で作っているのか、たしかにぜんぜんわからない。
太田 ジオフロントに攻めてくるのはわかってるから、偽装なんですかね。都市をあそこに作ってるのは。
小泉 あれ自体が囮で。
太田 でもあんなところに人住まわせといたらやばいですよね。
小泉 僕、ずっとすごく不思議だったのは、「サードインパクト」の破滅からまだ十数年ぐらいしか経っていないはずなんですけど、すごい古びた連れ込み宿みたいなのが出てくるんですよね(笑)。こんなに連れ込み宿が古びるほどに時間が経ってないのでは、というのが当時疑問でしょうがなく。
太田 小田原市内に奇跡的に残ったやつかもしれない。
ヤシマ作戦は庵野さんの趣味
小泉 あとは、ヤシマ作戦ってあれ、「エヴァ」が撃つ必要なくないか? とかって思うんですけど。
太田 やはり特殊能力が必要になるんですよ。シンクロがね(笑)。
小泉 あれ、いわゆるエネルギー充填兵器モノを庵野さんがやってみたかったんだろうな。
太田 たぶん、俺が波動砲をやったらこうなるぜ、みたいな感じの話ですよね。
高橋 ああ、そうそう。一方で、『ナディア』の「N-ノーチラス号」の発艦シーンって、ヤマトの発進シーンそのもので。エレベータが傾いて……。
太田 あれはセリフから効果音まで全部そのままでやっていて、すごく感動しました。どこまで好きやねんっていうね。
小泉 やっぱり庵野さんは、『宇宙戦艦ヤマト』にも戦艦「大和」そのものにも相当インスピレーションを受けているなって感じがします。東宝映画『連合艦隊』のオマージュもちょこちょこあるんです、『エヴァンゲリオン』には。
〈「やっと俺の中二病が終わるんじゃないか…」軍事研究家・小泉悠が『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の視聴を決意した瞬間〉へ続く
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