
- 2025.04.11
- 読書オンライン
「やっと俺の中二病が終わるんじゃないか…」軍事研究家・小泉悠が『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の視聴を決意した瞬間
小泉 悠,高橋 杉雄,太田 啓之,マライ・メントライン
『ゴジラvs.自衛隊』より その2 後編
〈「平時から電力グリッド構成に準備が必要」“ヤシマ作戦”なぜエヴァ初号機に撃たせる必要があったのか?〉から続く
アニメファンの識者4人が「エヴァンゲリオン』の魅力について討論。新刊『ゴジラvs.自衛隊 アニメの「戦争論」』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)

◆◆◆
日本の国歌『残酷な天使のテーゼ』
高橋 私ね、「サブカル」って言葉あまり好きじゃないんですよ。「What do you mean “sub”?」 何が「サブ」を「サブ」にするのか? っていうときに、要するにメインカルチャーがあってカウンターとしてのサブカルチャーっていう位置付けなわけです。けれども、少なくとも今日本でSFやアニメはサブではない。たとえば今年(2024年)上半期の映画の興行収入を見ても、1位はコナン君(『名探偵コナン』)で、2位が『ハイキュー!!』で、3位が『SPY×FAMILY』で、5位が『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』ですから。
小泉 そんなことまで把握してるんですか?
高橋 うん、エビデンスを押さえたいんですよ。人前で「アニメファン」と言って、変な目で見られなくなったのは、僕は『エヴァ』からだと思っていて、若い子たちが普通にしゃべっていたっていうことが、アニメファンが中心だった『ガンダム』のブームとちょっと違うんですよ。“エヴァ以前”と“エヴァ後”とで社会におけるアニメファンの立ち位置がだいぶ変わったと僕は同時代的に思っている。だから、“エヴァ後”に「サブカルチャー」って言葉を使うのはすごく慎重になるべきだと思っている。僕は「ポップカルチャー」って言い方をするんですけれど。
小泉 むしろ日本の、世界に対して一番売れている商品のひとつなので、ある意味でもうメインカルチャーになっちゃってるのかもしれないです。
高橋 あと『残酷な天使のテーゼ』がすごいカラオケで人気になったの。
小泉 僕は90年代、日本の国歌は『残酷な天使のテーゼ』だと思ってました(笑)。
太田 今はもう「アニメ好き」って言っても、別に変な目で見られることないですもんね。
マライ まあ、日本ではね。
小泉 ヨーロッパって全体的にメインカルチャーというか、クラシックなものに対するリスペクトがものすごくて。ロシアでも感じるんですけど、ドイツって特に強いですか?
マライ 強いですね。前も話したんですけど、ドイツに日本のアニメがたくさん入ってきたのが、まさに2000年ぐらい。日中やってるのは『ポケットモンスター』とか『デジモンアドベンチャー』とかそこらへんで、やっぱりアニメ=子どもだよねって感じなんです。でもじつは、深夜枠があって……。
小泉 大きいお友だち用。
マライ 大きいお友だち用の(笑)。『エヴァンゲリオン』も流れるし、『サイレントメビウス』とかも流れるんですよ。
高橋 『サイレントメビウス』、日本じゃあんまり観られないからなぁ。
太田 以前『機動戦士ガンダム展』の図録を作っていた時に、美術評論家の黒瀬陽平さんにインタビューしたんです。黒瀬さんに言わせると逆に日本のカルチャーでちゃんと歴史があるのは、「サブカル」だけなんだっていうんですよ。日本のメインカルチャー、たとえば美術とか音楽とかは基本的に欧米で流行ってるものを、日本的に翻訳するってことをずっと繰り返してきている。自分たち自身の独自の流れみたいなものがないんだ、と。黒瀬さんが言うには、今のオタクはそうじゃないかもしれないけど、少なくともオタク第一世代は歴史をすごく重視する。最初に『ヤマト』があって、『ガンダム』があって、それから『エヴァ』があってということをお作法として押さえておかないと、ちゃんとディープな話ができない。作り手もそれをものすごく意識してやっている。
高橋 その意味で言うと、庵野さんの作品ってすごい過去作のオマージュがいっぱいあるじゃないですか。
庵野監督にとって「過去作=呪縛」
太田 やっぱり過去作をリスペクトの上に作られているというか……。
高橋 リスペクトなのか遊んでいるのかよくわからないんですけどね。
太田 自分の根っこに入っちゃってるっていうかね、もう分離できない。庵野さんはよく「呪縛」っていう言い方をしますね。『ウルトラマン』や『デビルマン』について。僕も『デビルマン』は小学校3年の時にマンガ版を読んで、もうこれで人生変わっちゃったっていうのは本当に思うんですよ。僕は『エヴァ』を観た時にはもう30歳を超えていたから、いくらすごいなと思っても、呪縛にはならなかった。でも10代の時に観て、『エヴァ』に取り込まれちゃったような人は当時もけっこうね……。
高橋 いましたよね。だから『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の最後に、エヴァを全部葬っていくというのは非常に象徴的な場面ですよね。
小泉 そうかあれは、『エヴァ』世代のなんというか総じまいみたいな位置付けなんですね。
高橋 だと僕は思うね。
小泉 ……観よ。
マライ 観るんですね?
小泉 ちょっと今観る気になりました。
マライ お、宣言しましたね(笑)。そういえば、私は『新劇場版』の一番最後に描かれる人間の社会が、興味深いなと思ってて、けっこう社会主義っぽいことをやってるんですね。
太田 コミューンみたいなことをやってましたよね。
マライ 農業をやっていて、で、男が力仕事をして……。

高橋 計画経済ですね。
マライ でも、なんかちょっと違和感がある。前も話したけど、絶対ドイツでは成立しないんだろなっていう気がする。和気あいあいで、みんな手をつないで、世界が崩壊して貧乏になったんだけど、ハッピーにがんばる! っていうのが。日本映画でもそういう描写が時々あったりするんですよ。昭和初期よもう一度みたいな……。
小泉 清貧が好きなんですかね。
マライ 綾波は女性だから、そこらへんいろいろ目覚めても別に何の文句もないわけなんですけど、「女になる」みたいなところ、それは作品全体通して、なんかちょっと違う感じがするんです。「出産」とかそんなことばっか意識するようになる。「女としての幸せ」とかってワードが脳裏をよぎる。私が女性だからかもしれないけど。
高橋 そこは男性から見た女性像、あるいは妹キャラとしての女性像ってことですね。
マライ そうなんですよね。否定はしないんですけど、男性が描く作品だな、みたいな感じではあります。
「やっと俺の中二病が終わるんじゃないか……」
小泉 さっき言おうとして言わなかったんですけど、なぜ僕が『新劇場版』を、今日の会話を聞いて観る気になったかというと、やっと俺の中二病が終わるんじゃないか……と思ったんです。
太田 終わったら仕事にならなくなるんじゃないですか(笑)
高橋 たぶん、若者として観るのと親となって観るのでも違うし、それが明確にターゲットとしてデザインされている作品だと僕は思ってます。
マライ 私はテレビ版の最後のみんな拍手の、みんな大嫌いなあのシーン、すごい好きで。私はいいなと思ってるんですけど……。
小泉 「おめでとう」「おめでとう」。わけはわからんけども。
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