『宙色のハレルヤ』(窪 美澄)

『じっと手を見る』『ぼくは青くて透明で』『夜に星を放つ』など、心に沁み入る作品を次々書いてきた窪美澄さん。最新作『宙色のハレルヤ』は、さまざまな形の愛と恋を描いた6編を収録した珠玉の恋愛小説集です。

 惹かれ合う2人の女性に子供の塾で再会した男女、目の前に突然現れたかつての想い人の面影……。

 人を思う気持ちを前に「ふつう」なんてある? 私のこの想いに“名前”をつけるなら?

 そんな気持ちを掬いあげてくれる作品に、全国の書店員さんから共感の声がたくさん届いています。(第2回/全5回)


BOOKSえみたす富士吉原店 望月美保子さん
恋が纏っている空気も景色もこの世の全てを変えてしまう。浮き立つほどの幸せに包まれて何もかもが薔薇色に見えていたのに、終わってしまえばこの世の終わりかと思うぐらい心は張り裂け流す涙も溜息ももう何もかもが突然色を失う。悲しみも喜びも幾度と繰り返したその先に誰かの優しさに触れながら乗り越えていけばきっと見える景色はいつもと違って新しいに違いない。恋って一筋縄ではいかない。

正和堂書店 猪田みゆきさん
多様性、という言葉が広がる昨今。恋や愛もハッピーエンドからビターなものと様々あり、決して男女や両想いだけがその枠に当てはまるものじゃない。
一方通行でも、なかなか認められない想いでも、その人なりの恋や愛があって、犯罪じゃない限りあっていいんだよ、と伝えてくれているような気がします。

未来屋書店四條畷店 安藤由美子さん
恋愛小説を久しぶりに読みました。
恋愛ものがあまり得意ではないので、避けていたのです。
しかし、今回の「宙色のハレルヤ」を読んで、誰かに堪らなく惹かれるって、何て人間くさくって、側からみると愚かで、そして最高なこと、まさしく「ハレルヤ!」なんだろうと感じました。
ゴスペルを10年歌っていて、「ハレルヤ!」は気持ちが高まって、「もう、最高――!!」って時に発していたので、今回のタイトルに親しみを感じてました。
印象に残ったシーンは「天鵞絨のパライゾ」のユーシェンを洗ってあげるところです。
やっぱり、色恋の真ん中のものより、友愛に近いものの方が好きなんやなって改めて思ってしまいましたが、恋愛に心を持っていかれちゃってるからこそ、友愛が沁みるんですよね。
人間って愛おしいな、ハレルヤ!

須原屋ビーンズ武蔵浦和店 岩谷妙華さん
シーグラスひとつひとつを太陽にかざして覗いているかのように、物語のひとりひとりの感情の機微を覗いている気持ちになった。
どれも同じものはない恋の形がそこにはあって、懐かしくもあり、すこし寂しくもなる気持ちが、心地よい物語たちでした。
個人的に好きだった物語は、「赤くて冷たいゼリーのように」でした。共感する部分と、自分には知らない部分が混在して、なかなか読んだことのない種類の物語でとても心に残りました。

うさぎや矢板店 山田恵理子さん
切なさがはち切れそうになる。儚さの中に人の心の美しさが感じられる。「赤くて冷たいゼリーのように」深い余韻が残る作品だ。

未来屋書店大日店 石坂華月さん
「海鳴り遠くに」
擬態するように生きてきた恵美に訪れた出会い。本能のまま生きるにも、殻を破るのは自分自身だ。
自分に嘘をつくことは、相手にも誠実ではなく結局誰も幸せではない。繭の中で蠢くような感情と、美しいけれどその反面潮の臭いがまとわりつくような海辺の景色が重なりショートムービーを観ているかのようでした。

「風は西から」
両親の離婚は平気だったはずなのに、知らず知らずに傷を負い、ある日その瘡蓋が取れてしまう。
青春時代の淡い恋と失恋、身動きできない心と身体に覚えがあり、昔着ていた服を見つけて身につけたような感覚があった。思っているだけでは伝わらないことがあることを知り、陸はこれから伝えても伝わらないことがあることも知っていくのだろうとも思った。

「パスピエ」
よく行く居酒屋で見知った中野さんは、聞いた話では足の綺麗な人というだけの存在だったのに、それが少しずつ輪郭を帯びていき、予想もしなかった展開に行き着く先は?! と人に惹かれる感情にゾクリとする。
掴みどころのない中野さんに夢中になっていたのは読者である私だったのかもしれない。

「赤くて冷たいゼリーのように」
冒頭の一行で心を持っていかれてしまった。
おじさんは、学校の清掃の仕事をしている。そこで出会ったイジメに遭っている少年は、おじさんの思い出の中の友人を思い起こさせる。
目に付くと巣から叩き出す残虐性のある少年たち、見て見ぬふりができぬおじさんの胸に去来する想いが切ない。ありのまま生きることは、簡単なようで難しい。

「天鵞絨のパライゾ」
結婚とはいったいどういうものなのか。
自分から好きになったのではない、初めて相手から好きになってくれた人との結婚と離婚。
自分から見た景色と相手から見たものは同じではないとも思う。
蹲っていた主人公に寄り添ってくれたユーシェンとの優しい時間がまた歩き出すきっかけになるはずだ。
情けない想いや後悔でさえ、いつかきっと人生の宝物になるんだと思えた。

「雪が踊っている」
息子と友達とのよくある子供同士のトラブルから、不意に再会した元彼の存在。しかも、結婚まで考えていた相手となると……
別れた原因はひとつではないのに、古傷が痛むのは過去を許せていないせいなのか。それだけ信じていた人だったのだろう。
雪が降り積もり、心に住み着くわだかまりを覆い尽くし隠せばいい。降れ降れ、もっと降ればよい。
***
人生を振り返っても、そんなに恋愛経験がある方ではありませんが、誰かを好きになる例えようのない瞬間と、苦しくて泣き続けた期間やケロリと忘れてまた誰かを好きになった単純な自分のことを思い出しました。
「ハレルヤ!」そんな気持ちで私も人生のお土産にしたいと思います。