7月20日に築地・新喜楽で行われた第167回直木賞選考会は、5作の候補作の中から、窪美澄さんの『夜に星を放つ』が受賞作に選ばれた。
選考会後、林真理子選考委員は受賞作を「美しく清らかな小説」であり、「コロナという困難なテーマから逃げなかった」ことが選考会で評価されたと語り、さらに「コロナや現代の日常的な素材をさりげなく使い、文章力、構成力も含めて、存在感のある短編集に仕上げた手腕はすばらしい」と敬意を表した。
選考会後、受賞者の窪さんは帝国ホテルで記者会見に応じ、以下のように喜びを語った。
コロナ禍を経て、せめて小説では心が明るくなるものを
――直木賞を受賞された今のお気持ちをまずはお聞かせください。
窪 コロナの感染が広まる中、酷暑の中、お集まりいただきありがとうございます。
今の気持ちですけれども、嬉しさよりも、まだ実感が湧いていません。身体的な反応が、感情よりも先走っています。待機していた屏風の裏で汗が止まらず、飲んだお水の、おいしいことおいしいこと。こんなにおいしいお水を飲んだのは生まれて初めてかもしれません。だからたぶん、嬉しいんだと思います。
――コロナ禍を経て、小説について深まった思いはありますか。
窪 『夜に星を放つ』に収められている5編の中で2編がコロナについて書かれています。3年間、みなさんが非常に重たいものを抱えて生きていかなくてはならなくなった中で、せめて小説の中では、ちょっと心が明るくなるものを書きたいと思って書いた作品集です。
重い話も並行して書いていたんですけれども、なんとなく息苦しくなって、窓を開けずにはいられないような中で、この本がちょっと息抜きになればいいなと思って書きました。
――コロナ禍の中で執筆に関して変化したところは?
窪 変化したことはありません。ですが、子供が独立して一人で暮らしているので、小説家は孤独に強い生き物ですけれども、とにかく一人でいる時間が長くて長くて……。Tiktokを観たり、Netflixを観たりして、小説を読まなくちゃと思っても、読む気持ちにならなかったりしていました。息抜きが欲しいと強く思うようになりました。
――受賞作は「生」と「性」と「死」など、これまで書かれていた作品の集大成のようなテーマの短編集ですが、どのような思いを込められているのでしょうか。
窪 今回は性を前面には出してはいないですが、デビューが「女による女のためのR-18文学賞」でしたので、初期の作品は性を前面に出した作品が多いかと思います。死については、コロナで亡くなる方が多かったり、また自分の経験として、長男が生まれてすぐ病気でなくなってしまったので、意識しなくてもにじみ出てくるテーマなのだと思います。
――喪失感を抱えた人が希望を掴む短編集ですが、デビューから振り返って、直木賞は希望になりますか。
窪 直木賞を目標にしたことはあまりありませんでした。でも候補に入れていただいているうちに、だんだんその気になってくる自分がおかしいと思っていました。小説家としては隅の方で生きてきた人間なのに、今こうして皆さんの前に立っているというのは、冗談なのではないかという感覚がします。
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