〈「医師として使い物にならない…」体重100キロ超えだった東大卒医師が「健康診断」を活用して、半年間で30キロのダイエットに成功するまで〉から続く
年間3万人を診察する総合診療医の伊藤大介さんは、「健康診断こそが深刻な病気の『芽』を摘むことができる唯一の方法です」と強調する。
そんな伊藤さんが初の単著『総合診療医が徹底解読 健康診断でここまでわかる』を10月20日に刊行した。
血圧、血糖値、コレステロール、腎機能、がん検診……など検査数値の見方が180度変わる実用的なポイントが満載の内容になっている。今回は本の中から健康診断を機に人生を劇的に変えたAさんの体験談を抜粋する。
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「網羅的な採血」は健康診断の時にしか行わない
そもそも、健康診断がなければ、一体どんな時に病院に行くのでしょうか。
何らかの体調不良や風邪の症状を感じた時だと思います。ただ、その際、病院で採血をしても、目的を絞った項目のデータしか出ません。健康診断の時のように、「血糖値」や「コレステロール値」「尿酸値」など幅広いデータを出すような「網羅的な採血」は行わないのです。つまり、健康診断を受けなければ、「自分の全身の状態を知る機会」が無くなってしまうことになる。
しかも、やっかいなことに、脳卒中や心筋梗塞、がん、肝硬変など深刻な病気ほど自覚症状がなく“隠れ”ているものなのです。突如として発症するように見える病気にも確実にその「芽」が存在し、水面下で進行しています。
ところが、健康診断を受ければ、その結果を踏まえて、定期的な服薬を行ったり、生活習慣を変えたりするだけで、深刻な病気の「芽」を潰す確率をグッと上げることができるのです。
ここで「健康診断で人生が変わった」という45歳女性の患者Aさんの事例をご紹介します。
Aさんは2つのパートの仕事を掛け持ちし、子育てに奮闘する2児の母です。朝6時から身支度と朝食の準備をして、子供たちを学校に送り出します。8時から夕方6時までは仕事。その後、帰宅して、子供たちの夕食作りや溜まった家事をすれば、あっという間に1日が終わる。自分の健康なんて構っていられない、そんな毎日でした。
ある日、自治体から「健康診断の実施」を知らせる手紙が届きました。Aさんは「そういえば、久しく受けてないな……」と思い、何気なく受けてみたそうです。
すると、次ページの図表(1)のような結果が出ました(単位は省略)。
一言で言えば、かなり深刻な状態です。肥満、脂質異常症、慢性肝炎、高尿酸血症があります。そして重度の糖尿病も患っている。HbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)は1~2カ月間の血糖値の平均を表し、6.5%以上の数値が出れば、糖尿病と診断される基準の一つとなります。Aさんの場合、それを遥かに超えた10.3%です。通常の2倍近くの血糖値が、ずっと続いていることを意味します。
心筋梗塞や狭心症のリスクが15%も上昇
2023年の海外の研究では、HbA1c が1%増加するごとに、心筋梗塞や狭心症になるリスクが約15%も上昇し、HbA1c が8.6%を超えた状態で生活を続けた場合、そのリスクが約1.8倍も高まるという結果が出ています。
Aさんの血管にはコレステロールと糖質があふれかえり、心臓や肝臓が悲鳴をあげている。「今すぐ何かを変えなければいけない」状況でした。その後の検査でも、C判定やD判定が続くので、当院を訪れた時のAさんは「もう、どうすればいいか分かりません」と頭を抱えていました。
私は、健康診断の数値の見方や放置した場合のリスク、そして改善すべき点を説明しました。「薬は最小限に抑えたい」というAさんの意向もあり、ほとんど薬物治療は行いませんでした。代わりに食事メニューや日々の運動量を指導し、食事量の改善率の計算、体重の記録をつけてもらうようにしました。
その結果、Aさんの健康への意識が変わりました。薬を1種類だけに抑えながら、8カ月後には数値が劇的に改善されたのです。
次ページの図表(2)を見てください。
まるで別人です。実際に体型も見た目も見違えるほど変わりました。高血圧を抱えている人には分かると思いますが、生活習慣の改善だけで血圧を下げるのは至難の業です。しかし、Aさんは収縮期血圧が15(mmHg)、拡張期血圧が9も低下しています。
日々の血糖コントロールも良好で、HbA1c も10.3%から半分の5.5%まで下がりました。もちろん余裕で基準値の範囲内に収まっています。
失明や足の切断のリスクを回避して人生を切り開いた
Aさんの頑張りも見事ですが、ここで伝えたいのは健康診断の劇的な効果です。
仮にAさんが、健康診断を受けずに放置していたらどうなるか。
例えば、糖尿病を放置すると、全身の血管の動脈硬化が加速します。末梢神経がピリピリと痛み出し、目の血管も糖に侵されて網膜症が進むでしょう。最悪の場合は、脳卒中や心筋梗塞を発症することも考えられますし、あるいは失明に陥ったり、足が腐って切断を余儀なくされるかもしれません。
しかし、健康診断を受けたからこそ、自分で深刻な病状を把握し、治療することができた。そして、健康的な生活習慣を身につけられた。Aさんは自分自身の手で運命を切り開いたのです。
このように健康診断にはおどろくような可能性が秘められています。先にも述べたように病気の芽を摘むための「宝の地図」なのです。しかし、当然のことですが、地図もきちんと読み取れなければ、無駄に終わってしまいます。







