〈「とても参考になった」香港の経営者が驚嘆! なぜ日本の「健康診断」は世界でも“優れたシステム”だと言えるのか〉から続く
年間3万人を診察する総合診療医の伊藤大介さんは、「健康診断こそが深刻な病気の『芽』を摘むことができる唯一の方法です」と強調する。
そんな伊藤さんが初の単著『総合診療医が徹底解読 健康診断でここまでわかる』を10月20日に刊行した。
血圧、血糖値、コレステロール、腎機能、がん検診……など検査数値の見方が180度変わる実用的なポイントが満載の内容になっている。今回は本の中から、がん検診の中でも「便潜血検査」を受けることのメリットがいかに大きいかを解説した個所を一挙に紹介する。
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大腸がんは他のがんと違って予防しやすい
幅広さ:★★★★☆
信頼性:★★★★☆
安全性:★★★★★
コスト:★★★★★
2020年の「国立がん研究センター」の統計によれば、大腸がんの男女合計罹患者数はがん患者の中で第1位です。死亡者数も肺がんに次ぐ第2位となっています。
さらに、40代後半から徐々にがんになる人が増え、70歳くらいでピークを迎えますが、大腸がんの場合は75歳を過ぎても依然として患者数が多い。
一方で、実は大腸がんは、他のがんと違って予防しやすいがんでもあります。突然、発症することは少なく、「腺腫」と呼ばれるがんの芽のような状態を経てから、本格的ながんになることが多いのです。
つまり、腺腫の状態で発見し、内視鏡手術で早めに切除してしまえば、がんの脅威そのものを無くすことができる。他のがんと比較しても早期発見がとりわけ重要な意味を持つのです。
そこで、オススメしたい検査が「便潜血検査」です。
「生活習慣病予防健診」の項目の中に入っているので、定期的に検査している方もいるでしょう。中には扶養の関係で、定期的な健康診断を受けていない方もいるかもしれませんが、それでもオプション検査として便潜血検査は、ぜひ受けておいてほしい。
2023年に大阪大学と国立がん研究センターの研究グループが発表した、3万381人の日本人(開始時40~59歳)を対象とした14年間におよぶ追跡調査の分析によると、便潜血検査を受けた回数が増えるにつれて大腸がんによる死亡リスクは減少し、便潜血検査を2回または3回受けた人では、まったく受けていない人に比べて、死亡リスクが44%も減少することがわかっています。
料金は500~1000円で非常に安く、体への負担もない
検査の仕方は、2日にわけてスティックで適量の便を採取し、クリニックに提出するだけ。極めて簡単です。しかも、料金は500~1000円と非常に安い。もちろん体への負担もありません。
安くて簡単なわりに意外と精度も高い。
アメリカのミネソタ大学が約4万6000人を対象に行った研究を分析した論文によると大腸がんの「真の早期発見」にいたる確率は1.9~3.8%と高く、治療の必要がない病変を見つけてしまう過剰診断の確率も0.16~0.3%と低いのです。
便潜血検査は年1回ほどのペースで受けることをオススメしたいのですが、いくつか注意点があります。
ありがちなのが、「便潜血検査で『陽性』になったけど、再検査をしてほしい」という患者さんからの相談です。例えば、50代の患者さんで「痔があるから」という理由で、再検査を希望して私の病院に来られた方がいました。あるいは、70代の患者さんで「大便に血が混ざっているのは普通のこと」と考えている方もいました。
しかし、私はいずれの患者さんにもこう言いました。
「たとえどのような事情があったにせよ、便潜血検査で1回でも『陽性』が出たのであれば、大腸内視鏡検査を受けた方がいい」
そもそも便から血が検出された時点で異常です。前述の通り、過剰診断の確率は0.3%以下で精度も高いので、検査結果を「甘く見る」理由が何もないのです。
「採便するときに生理だった」という女性の方もいます。
この場合は、たしかに再検査の適応に当たりますが、生理中の検査は偽陽性が生じやすいので、できれば避けるようにしてください。
まずは気軽に便潜血検査から始めるのがよい
また、「2回できずに1回の検査になってしまった」という方もいます。
もちろん便秘などの理由で便が出ずに、つい同じ便から2回分を採取してしまう方もいるでしょう。しかし、それではせっかくの便潜血検査の効果を十分に発揮することはできません。「1回法」よりも「2回法」の方が当然、精度は高いので、何とか頑張って2回、便を出したいところです。
また、読者の中には「大腸がんをスクリーニングするのであれば、便潜血検査よりも、最初から大腸内視鏡検査を受けた方がよいのではないか」と疑問を持たれる方もいるかもしれません。
たしかに一理あります。例えば前述の14年間の追跡調査では、追跡開始時に大腸内視鏡検査を受けた人は、受けなかった人に比べて、大腸がんによる死亡リスクが69%も低下しており、数字だけを見れば、便潜血検査による44%低下よりも優れています。
しかし、大腸内視鏡検査は大量の下剤を飲まないといけない上に、大腸カメラを肛門から入れることへの抵抗感、心理的ハードルが高いのも事実です。検査料も6000~1万5000円ほどで、かなり高額です。
そのため、まずは気軽に便潜血検査から始めるのがよいでしょう。
ただし、大腸がんの家族歴がある方や、普段から肉食中心で脂っこい食事が多い方などは、大腸がんのリスクが高いので、大腸内視鏡も検討するとよいでしょう。
伊藤大介(いとう・だいすけ)
1984年、岐阜県生まれ。東京大学医学部卒業後、同大医学部外科博士課程修了。肝胆膵の外科医を経て、その後、内科医・皮膚科医に転身。日本赤十字医療センターや公立昭和病院などを経て、2020年に一之江駅前ひまわり医院院長に就任。1日に約150人、年間3万人以上の患者を診察する。日本プライマリ・ケア連合学会認定医、同指導医、日本病院総合診療医学会認定医、マンモグラフィ読影医。2025年に日本外科学会優秀論文賞を受賞。
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