――主人公を、宗像一族の祭祀を司る若い巫女・伽耶姫にしたのは?
宗像一族が祀っているのが三柱の姫神さま、宗像三女神です。主人公はこの三女神に通じる女性にしたいという思いがありました。伽耶は新羅人を父にもちますが、九州北部の海人族と朝鮮半島南部に住む海人族は海上交通を利用して交易を活発に行っていたので、当時は彼女のように、倭人と、百済人や新羅人との間に生まれた子どもも多かったのではないかと思います。
――この物語では、遣隋使が、倭国だけでなく新羅、百済、高句麗の四カ国に平和をもたらそうとする先進的で高度な外交政策として描かれていて、驚きました。
「隋書」に出てくる「日出ずる処の天子、書を日没する処の天子に致す。恙無しや」という外交文書から、倭国は隋との対等外交を目指したという解釈が一般的に言われますが、私が調べた範囲では、それを証明する根拠はありません。聖徳太子は仏教を通じて新羅の真平王と親密な関係を築いていたし、聖徳太子が摂政になってから亡くなるまでの間、倭国はそれまでの強硬路線を抑え、新羅と戦争をしていない。遣隋使についてはほとんど資料が残っていないのですが、こうした状況から推測すると、聖徳太子が隋に使者を送ったのは、倭国、新羅、百済がそろって隋の冊封下に入ることで戦争を抑止するためだったとしか思えないのです。つまり、遣隋使は、隋を頂点とする集団安全保障体制を築こうとする外交政策だったのではないか、と考えました。
――遣隋使を成功させるうえで重要な役割を果たすのが、沖ノ島です。沖ノ島は先日、世界文化遺産登録を目指す国内候補にも決まりましたね。また、この作品は12月に博多座で舞台化されることが決まっています。
宗像一族が神体島として崇めた沖ノ島は、海上交通の要所であり、古代から航海安全を祈る祭祀が行われてきました。8万点もの出土品はすべて国宝に指定されていて、特に、新羅からもたらされた金製指輪はデザインといい、金の純度といい、当時こんなに美しいものがあったのかと驚かされます。私も3年前に沖ノ島へ行きましたが、「一木一草一石たりとも持ち出してはならない」など、今でも様々な禁忌を守り、神宿る島として信仰を集めるこの島には、日本人の一つのありようが現れているように感じました。舞台化は福岡文化連盟の創立50周年を記念したものです。福岡と釜山は姉妹都市なので、両都市が登場するこの作品は今回の舞台化にぴったりだと、今から公演を楽しみにしています。
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。