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真山仁 デビュー10周年『売国』で始まる新たな挑戦

真山仁 デビュー10周年『売国』で始まる新たな挑戦

「本の話」編集部

『売国』 (真山仁 著)


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

権力の行使には徹底した裏付けが必要

 書いた原稿が正しいか、チェックのために毎週読んでいただいた方もいます。ときには、呼び出されて、こんこんと説教されたこともありました。

 さらにふたを開けてみて大変だったのは、時代とともに法的なルールや手続きがどんどん変わっていること。昔気質のキャリアの長い特捜部の人物を書きたいなら、そのスピリッツを持った特捜部の方やOBを探さないといけないし、新しい手続きを知るには現役の方でないといけなかった。特に、裁判員制度になってからは、公判前整理手続きを尊重したため、裁判で新たな事実が出るようなことはなくなってつまらなくなった。法廷で1人の証人が「全部見てました!」と告白して状況が逆転するようなことは今はあり得ないのです。私自身の知識を新しくするために改めて調べ直しました。

 取材していくと、大阪地検特捜部で起きた証拠改ざん事件のような体質とは逆のものも感じましたし、「これは危ういな」と感じたこともありました。プラスの面についてはぜひ『売国』を読んでください。危ういなと思ったのは、尋問を記録しない点です。取り調べのメモを残さないで燃やすということが行なわれていた。特捜部はエリート集団ですし、ものすごい権力を持っているけれど、それだけに負けは許されない。プレッシャーがあるわけです。

 権力を持っているが故に、していいことと、してはいけないことがある。権力を正しく行使するための判断基準は、行使の根拠が徹底的に裏付けられるか否かだと思います。

 検察は独任官庁と言われて、ひとりで捜査してひとりで起訴できるんですが、一方で検事総長のハンコがいるという矛盾した面がある。テレビドラマだと、東京地検特捜部が大臣を取り調べたりするじゃないですか。実はそんな簡単に出来ない。取り調べの準備だけでも何カ月もかけて、失敗したら誰かが詰め腹を切る覚悟がいる。世間では鬼平のようなイメージを持たれていますが、特捜部ですら政治家を取り調べるのは難しいというのは、大きな発見でした。

 さて、特捜部をテーマにするとして、問題は誰を逮捕するかです。小説ですから、固有名詞や実名が使えないので悩みました。インパクトのある人物にしようと考え抜いたうえで、逮捕されるとショックが大きい悪人像が浮かびました。ある悪い集団がいて、日本が大事にしている技術開発を邪魔しようとする。となると今度は、彼らがのどから手が出るほど欲しがる虎の子の技術が日本にあるのか、ということになってくるわけです。いくつか挙がった案の中から、航空産業がよいのでは、ということになり調べ始めました。

【次ページ】題材を航空産業からロケット開発に大きく転換した理由

単行本
売国
真山仁

定価:1,925円(税込)発売日:2014年10月30日

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