2014.10.24 インタビューほか

真山仁、『売国』を語る

「本の話」編集部

真山仁、『売国』を語る

真山 仁

なぜ、この物語がいま描かれたのか。東京地検特捜部と宇宙開発の現場を舞台に、日本の現在、そして未来への希望を紡いだ理由を存分に語って頂きました。

『売国』 (真山 仁 著)

――今回は「東京地検特捜部」が舞台です。このテーマを選ばれたきっかけは何でしょうか。

 東京地検特捜部を舞台にした小説を書きたいとは昔から思っていたんです。ただ、この小説の構想を最初に練った2012年当時、特捜部は設立以来最大のピンチを迎えていました。厚労省の村木厚子さんが巻き込まれた郵便不正事件で、大阪地検特捜部検事による証拠の改ざんが明らかになり、小沢一郎氏をめぐる陸山会事件では、東京地検特捜部の検事が元秘書の供述と異なる捜査報告書を作ったことが明るみに出た。「特捜部は解体すべき」という議論も盛んに行われ、かつて「最強の捜査機関」と呼ばれた彼らの権威は地に落ちていました。

 でも、私自身はその論調には違和感を持っていました。社会には「揺らいではいけないもの」があって、本来特捜部が担っていたはずの「一般の捜査が届きにくい所に潜む『巨悪』に切り込み、処罰していく」ということまで揺らいでもいいのだろうかと。そこで、ただ「いらない」と批判するのではなく、そもそも「特捜部」とはなんなのかをまずは徹底的に取材してみようと思ったんです。そして、取材で見えてきた「本来あるべき強い特捜部」が「巨悪」を追及していく小説を書いたら面白いのではと思ったんですね。

――主人公の検察官・冨永真一は、そんな「あるべき検察官の姿」を体現したキャラクターのように感じます。

 そうですね。特に、冨永には「証拠に則って罪を問う」姿勢を徹底させました。例えば『売国』第一章で、公判部に所属する冨永は「あかねちゃん事件」という、幼女殺害事件の公判を担当します。この事件は幼女の遺体が見つかっていないまま、刑事部の先輩検察官が被疑者を起訴してしまった「遺体なき殺人事件」です。被疑者は取調べ当初、あかねちゃんの殺害を自白したのですが、その後供述を一転させ否認に転じている。実は起訴の時点で、被疑者が犯人であると示す重要な証拠はこの自白だけといってもよかった。しかし、冨永は確かな物証がないと公判を戦えないと考え、あかねちゃんの遺体を見つけ出すため、事件の捜査にあたった捜査一課の警部に頼み、組織の壁を越えた大掛かりな再捜索を始めるんです。

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売国
真山 仁・著

定価:本体1750円+税 発売日:2014年10月30日

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