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真山仁 デビュー10周年『売国』で始まる新たな挑戦

真山仁 デビュー10周年『売国』で始まる新たな挑戦

「本の話」編集部

『売国』 (真山仁 著)


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

苦労の連続だった地検特捜部の取材

東京・霞ヶ関の検察庁

 小説家は漫画家の方と違って、たくさんの出版社と仕事をします。漫画家の方の多くは、例えば講談社ならば講談社1社とずっと仕事をして、編集者と一緒に成長していくんですが、私たち小説家は同時に何社とも仕事をします。

 私の場合10社か11社と仕事をしていますが、そうすると同じ出版社で2作目、3作目を出すのにかなり時間がかかります。

『売国』は文藝春秋で2冊目の本なのですが、前作の『コラプティオ』は「別册文藝春秋」の連載で、私にとって初めての政治小説を書きました。2作目は、「週刊文春」で連載をというご提案をいただいて、新しい挑戦として、東京地検特捜部をテーマに据えました。特捜部は基本的には政治家、政治犯を扱っていて殺人事件は扱わないので、ミステリーの要素は少ないんです。今回は宇宙開発を巡る陰謀を絡めたり、主人公の検事が特捜部に来る前に遺体なき殺人事件を担当したため、今までにないミステリー色の濃い1冊になりました。

 本が出来あがるまでの苦労話はたくさんあるのですが、とにかく検察庁のガードが固くて取材が大変でした。

 昔を知る特捜部の検事さんは、「新聞記者と仲が良かった時期は、よく一緒に飲んで情報交換をしていた。マスコミからの情報提供で始まった大きな事件もある」とおっしゃっていました。

 ところが、たぶん佐川事件の捜査で検察庁の石碑にペンキが投げつけられた頃(1992年)を境に、検察は非常にマスコミ嫌いになるんです。新聞記者は警察と同じように検察にも夜回りをします。ただし、検察は次席という、それぞれの地検のナンバー2のところにしか行っちゃいけない。行っちゃいけないんですけど大きな事件が動き出すと、担当検事に行ってしまう。すると、朝に検事が集められて、「昨日、夜回りされた者は手をあげろ。どこに何を喋ったか全部話せ」。これをやり始めてから、検事はマスコミの取材を受けなくなりました。

『売国』執筆のため、検察庁の施設内を見学させてほしいと取材依頼しましたが、1カ月たらいまわしにされて結果、断られました。取材申請を「週刊文春」の名前で出したから警戒されたのかも知れませんね(笑)。

 検事の方に私が聞きたかったのは、どうやって起訴するのか、といった手続的なところです。これまでに培ったいろんな伝手も使って、なんとか特捜部経験者にお話を聞くことが出来ました。一緒に取材に歩いた「週刊文春」の担当者は、暇があれば弁護士紳士録を見て、検察をやめたばかりの人を捜しては電話をしていましたね。

【次ページ】権力の行使には徹底した裏付けが必要

単行本
売国
真山仁

定価:1,925円(税込)発売日:2014年10月30日

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