日本には原爆8000発分のプルトニウムが眠っている
なぜ日本の固体燃料ロケット開発の進化が懸念されているのか。理由は、核ミサイルの開発につながるからです。皆さん「核弾頭」というと原子力発電所を思い浮かべるかも知れませんが、違います。原発に使用される低濃縮ウランは、濃度が10%未満しかありません。もしミサイルを作るなら、日本中から核燃料を集めなければならないし、濃縮のためにだいぶ気の遠い技術開発が必要になります。しかし、そんなことをしなくとも青森県の六ヶ所村に原爆8000発分のプルトニウムが眠っています。核廃棄物であるプルトニウムを発電に使えれば、ウランを輸入しなくともほぼ永久に原発を動かし続けることができるからため込んであるんです。
以前、原発輸出をテーマにした『コラプティオ』や中国での原発建設をテーマにした『ベイジン』などの小説を書くために取材をして知っているのですが、核兵器の拡散を防ぐための組織であるIAEA(国際原子力機関)に核兵器の保有を認められている中国、フランス、イギリス、ロシア、アメリカ以外の原子炉を持っている国はIAEAが徹底的にチェックをしています。例えば、すべての原子炉の側にIAEAの人しかカギをあけられないビデオ装置があって、運営を監視しています。そのIAEAの職員が世界で一番多いのが、日本です。なぜなら、六ヶ所村を監視する必要があるからです。
これは政治家の先生方にぜひ知っていただきたいのですが、日本がいくら「戦争をしない」と言っても、他の国は「日本は必ず戦争をする」と警戒しています。核弾頭を積めるミサイルの技術を持っていますし、世界のミサイルのボディーのほとんどは日本でつくっています。さらにミサイルの制御に使う半導体は、少なくとも数年前までは日本のNECや富士通といったメーカー製でした。
そういう背景がこの小説にはあります。だから、宇宙なんです。
「週刊文春」連載中は、宇宙と特捜部がなかなかつながらないので、編集部に「本当につながりますか」と言われていました(笑)。それもあって、単行本にするときには、2つのテーマが互いに近づいていくように書き込む作業を相当しました。
一方で、連載終了時のままでは550ページ以上あったものを、360ページくらいにしました。500枚くらい削って300枚くらい加筆しています。ですから連載で読んだ方もご安心ください。冒頭から結末までが違います。連載時より、さらにおもしろくなっていると思います。