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真山仁 デビュー10周年『売国』で始まる新たな挑戦

真山仁 デビュー10周年『売国』で始まる新たな挑戦

「本の話」編集部

『売国』 (真山仁 著)


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

題材を航空産業からロケット開発に大きく転換した理由

2013年9月14日、鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられたイプシロンロケット

 2015年5月にようやく国産の旅客機であるMRJ(三菱リージョナルジェット)が初飛行する予定ですが、『売国』の連載準備をしていた2012年の秋には、もう明日飛ぶ! くらい勢いのいいニュースが流れていました。けれど、アメリカが邪魔をしたんですね。「簡単に飛行機が飛ばせると思うな」と言わんばかりに、日本にとっては言いがかりに近いことをされた。実はアメリカには、自国の上空を飛ぶ飛行機に対して課すルールを監督しているセクションがあります。新たな機体を運行する際には、そこに設計図などの一式を提出しないといけない。ですから、新しい飛行機をつくってもその技術は全部ばれてしまうんです。

 そういうこともあり、「航空産業で日本が本気になったら世界の先進国は焦る」という構図は空中分解してしまいました。その話を、事務所の優秀な調査スタッフの1人にしたところ、彼は宇宙が面白いのではと教えてくれました。彼に3時間もレクチャーしてもらった結果、日本の宇宙開発技術には、他国が真似できないものがたくさんあると分かり、宇宙開発の可能性を理解でき、テーマが決まりました。

 ロケット開発には大きくわけると、2つの系統があります。1つは「液体燃料ロケット」、もう1つは「固体燃料ロケット」です。

 スペースシャトルの打ち上げの時にロケットからずっと水煙が出ています。あれは「液体燃料ロケット」で、液体酸素と液体水素をギリギリまで入れて、それを燃料にして飛ばしているんです。「液体燃料ロケット」のいいところは、コントロールしやすいこと。巨大なものが飛ばせるので、有人も可能です。はやぶさ2打ち上げもH2Aという液体燃料ロケットです。

「固体燃料ロケット」は、簡単に言うと花火。火薬を使って飛ばします。ペンシルロケットで有名な日本の糸川英夫博士が中心になって独自の研究を続けてきたもので、2003年にはやぶさを打ち上げました。3段階の火薬にどこで火をつけたらいいか計算しながら宇宙まで飛ばすためコントロールが難しく、日本の技術は世界垂涎のレベルです。狙った場所に飛ばす制御技術も優れていて、ロケットを鹿児島から飛ばしてブラジルを飛んでいる蝶々のど真ん中をぶち抜けるほどです。

 ところで、この固体燃料ロケットの別名は大陸間弾道ミサイル(ICBM)なんですね。世界の先進国は日本がこの技術を進化させることに危機感を抱いています。ロケットを制御する方法を制限したり、あの手この手で邪魔しようとしていますし、技術情報を得ようと必死です。ですが、日本のロケット作りは独特で、肝心な所は口伝で、図面通りにつくっていない。手作りなので、設計図を見ないで皆でいじって微調整していて、記録にも残らない。他国は真似しようとしてもできないのです。

【次ページ】日本には原爆8000発分のプルトニウムが眠っている

単行本
売国
真山仁

定価:1,925円(税込)発売日:2014年10月30日

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