この一年半はアメリカのトランプ大統領の言動に振り回されてきました。彼はディール(取引)が得意。相手をビックリさせるような要求を突き付けて、やがて妥協点を見出すという手法であることはわかっていても、驚くことばかりでした。

 二〇二六年一月には突然ベネズエラを軍事攻撃。マドゥロ大統領を拉致してアメリカに連行したと思ったら、二月末になってイスラエルと共にイランを爆撃。激しい空爆が続きました。

 その後、四月になって停戦合意ができましたが、互いに相手が「停戦条件を破った」と主張して、なかなか完全な停戦になりません。

 そのたびごとに株価は乱高下しますし、原油先物価格は一時一バレルが一〇〇ドルを超えるまでになりました。こうなると、株式投資をしている人は、トランプ発言に一喜一憂することになるでしょう。

 四月上旬にパキスタンの仲介でアメリカとイランは二週間の停戦で合意しましたが、この合意事項の中に、イランがホルムズ海峡を通る船から通航料を取ろうというとんでもない了解事項が含まれていたのには驚愕です。

 そもそも国際海峡ではどこの国の船でも自由に航行できることになっていたのですから、こんな条件を認めたら、アメリカが敗北したことになります。アメリカは他国から石油を買わなくても済む石油産出国ですから、ホルムズ海峡など、どうでもいいということなのでしょう。

 もしタンカーが通航料を払わなければならなくなったら、そのコストが石油製品の価格に上乗せされるでしょう。とんでもないことになってしまいかねないのです。

 戦争になると、私たちの身の回りのお金の動きが気になりますが、トランプ大統領の周辺には戦争で金儲けをしている人間がいる疑惑が浮上しました。

 アメリカによるイラン攻撃の経緯を振り返ってみると、トランプ大統領のSNSへの投稿によって、原油先物価格も株価も大きく変動しています。その変動ぶりを見ると、ある疑惑が生まれたと、アメリカで報道されています。それは三月二三日の朝のことでした。

 この直前までトランプ大統領は、「四八時間以内にホルムズ海峡を開放しなければイランの発電所を壊滅させる」と宣言していました。ところが、このとき「攻撃を五日間延期する」とSNSに投稿しました。

 トランプ大統領の発言がたびたび変わることに私たちは慣れっこになってしまいましたが、実はトランプ大統領の発信の直前に怪しい取引があり、トランプ陣営の誰かが事前に情報を掴んで大儲けをしているのではないかと問題になっています。以下は三月二六日の電子版「ウォールストリートジャーナル日本版」の記事です。

〈トランプ氏が23日朝に自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」への投稿でイランとの緊張を緩和する約15分前に、原油先物とS&P500種指数先物で不可解な取引活動が急増した。これにより原油価格は急落し、株価は急伸した。

 トランプ氏に批判的な向きは、誰かがこの投稿の内容を事前に把握して利益を得たと即座に推測した。(中略)

 2026年3月23日:トランプ氏はトゥルース・ソーシャルへの投稿で、イランとの「生産的な」協議を受けて、イランの発電所への攻撃を延期すると発表した。

 投稿の約15分前、原油先物市場で突如として取引が急増した。ダウ・ジョーンズ・マーケット・データによると、米東部時間午前6時49分から6時51分までの2分間に、7億6000万ドル以上のブレント原油先物とWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物が取引された。同じ時間帯にS&P500先物でも同様の取引急増が見られた。

 取引量の急増に明確なきっかけはなかった。午前6時50分の出来高急増時に、原油価格はわずかに下落した。トランプ氏の投稿後、原油価格は即座に下落し、株価指数先物は急騰した〉

 実は、これ以外にもトランプ大統領がベネズエラ攻撃を発表する直前に怪しい動きがあったと報告されています。トランプ大統領の発言によって大儲けしている人物あるいは組織があることをうかがわせる取引があるのです。トランプ大統領の態度急変を知り得る立場の人間としか考えられません。まさかトランプ本人ではないでしょうが。

 戦争をめぐって金儲けという、忌むべきことが、トランプ大統領の周辺で行われているのです。

 本書は、「週刊文春」に連載してきたコラム「池上彰のそこからですか!?」に加筆し再編集しました。なぜ「そこからですか!?」というタイトルになったかといえば、ニュースについて、読んだ人が思わず「そこから説明を始めるんですか?」と驚くような基礎の基礎からの解説を心がけているからです。

 これまで実にいろいろな話題を取り上げているのですが、やがては「マネーはどうなる?」という疑問に突き当たることになりました。読者のあなたにとって、ニュースやお金について知るきっかけになれば幸いです。

 連載中は池田誉さんと桒名ひとみさん、イラストレーターの3rdeyeさんにお世話になりました。本書にまとめるに当たっては東郷雄多さんの手を煩わせました。ありがとうございました。

二〇二六年四月

ジャーナリスト  池上 彰


「はじめに」より