インタビューほか

「かわせみ」は日本人の精神安定剤
蓬田やすひろ (画家)

「本の話」編集部

『初春の客 御宿かわせみ傑作選 1』 (平岩弓枝 著/蓬田やすひろ 画)

なつかしい日本人気質

――調べてみましたら、「オール讀物」の挿絵は昭和六十三年の一月号から、単行本の装画は二十一巻目の『春の高瀬舟』からで八冊、文庫は二十巻目の『お吉の茶碗』からで、これも八冊です。今年の三月から文庫の新装版の刊行が始まりますが、すべて蓬田さんの装画にかわります。「かわせみ」の魅力を語っていただけますか。

 古い新しいに関係ない日本人の持っている気質のようなもの、それから夫婦愛とか肉親に対する情愛ですとか、友情とか、そういう人間愛が作品のベースにあって、その上に毎月毎月の物語があるんです。

 だからまどろっこしくない。東吾といえば勇気にあふれてみんなから頼られる日本男児ですし、おるいさんは優しく美しい日本女性。畝源三郎、お吉や嘉助、長助といった登場人物も、それぞれの生まれた環境や育った環境がわかっていて、その人間性や倫理観がはっきりしているんです。そこまで組み立てられている小説世界。

 ですから、月初めに「オール讀物」の編集部から原稿をいただいて読みますよね、それが私の毎月の精神安定剤になってるんですよ。私にとってそういう作品ですし、多くの読者も同じような感覚をもっておられるんじゃないでしょうか。

 最初に挿絵の依頼を受けたときは、正直言ってビビりましたよ。テレビでは知っていて、なんともいえないあたたかさを感じてはいたんですが、恥ずかしながら、読んだことはなかったんです。ベストセラー作品だし、できるかなあと。

 でも、原稿を読んだとき、初めて読む世界という気が少しもしませんでした。自然に入っていけるし、登場人物たちの人間性にみな納得がいくんですよね。

 もちろんテレビで知っていたということもあるんでしょうけれど、そういえば親父も同じようなことをいってたなあとか、お袋にもこんな面があったなあと、とてもなつかしく感じたからなんだと思うんです。ああ、感じるままに楽に描けばいいんだ、自分だってよく知っている世界なんだからと思ったら、急にプレッシャーがなくなりましてね、自然に筆が動いたんです。

――いろいろな時代小説作家とお組みになられています。時代小説の絵についてどうお考えですか。

 作品世界をいったん自分の中に消化した上で、その裏側にあるもの、活字では表現できなかったものを描きたいですね。読者がまず見て、あれ、なぜこういう絵になったのかなあと疑問を持つ。読んでみると、なるほど、書かれてはいないけれど、この世界の裏にはこんなものがあるんだ、と思ってもらえるような絵です。そのことで小説の世界により広がりや深みが出る。作家の中にはそれを嫌がる方もいらっしゃるのでしょうけれど、私が絵を担当した方はみな、それをよしとしてくださいました。

――時代小説の絵には細部の正確な考証が求められますね。着物の柄とか髪型とか。

 そういうものはその都度その都度、調べながら覚えていくしかないんですが、むずかしいのは、そうした考証ごとにがんじがらめになってしまうと、構図とか省略とかによって生まれる美しさを失ってしまうことなんです。ヨーロッパ人が浮世絵を観て感動したのは、極端なデフォルメや構図の取り方で生じる美しさ、空間の描写力とそれによって生まれる美だったと思うんです。北斎とか広重を思い浮かべていただければいいと思うんですが、この感性はヨーロッパにはないもので、彼らはそれに憧れたんだと思う。浮世絵がもっていた美を挿絵で表現できたらと思っているんです。

初春の客 御宿かわせみ傑作選 1
平岩弓枝・著 蓬田やすひろ・画

定価:本体800円+税 発売日:2014年02月07日

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