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AIは雇用を奪うか? その時、私たちの暮らしは? 人工知能時代の経済を問う!

AIは雇用を奪うか? その時、私たちの暮らしは? 人工知能時代の経済を問う!

「本の話」編集部

『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』 (井上智洋 著)


ジャンル : #ノンフィクション

AIによる失業は起きるのか?

井上 本論に入りますと、AIの発達において2030年に汎用AIが登場するという前提に乗ると、それから15年後の2045年くらいには人口の約1割しかまともに働いていない未来も有り得ます。汎用AIは人間並みの知性を持ちますから、それを搭載したロボットは人間とほぼ同様の労働を担い得ると考えられます。私は、特定の作業に特化した「特化型AI」であれば、まだ人間の優位性は残ると思っているんです。iPhoneの「Siri」とか、囲碁AIの「アルファ碁」とか最近は特化型AIの活躍が目覚ましいですが、特化型AIがもたらす失業は限定的です。しかし、汎用AIが登場すると状況は一変する。

飯田 そうそう。もしこれらの実用化がもっと進むと、ラッダイト運動(産業革命時にイギリスで起きた機械破壊運動)のようなことも起きるかもしれません(苦笑)。1930年代に、ケインズは「100年後には1週間に15時間働けばいい時代が来る」とユートピア的な予言をしていました。これから特化型AIの時代が来た瞬間、この予言は当たったことになることでしょう。ところが、あっという間に、汎用AIによって15時間働くどころか、ごく一部の人が1時間働けばそれで良し、他の人は全員失業というディストピア的世界になりかねない。そうなるとこの予言は大外れということになる。

「技術的失業」は解消されるか?

井上 技術の進歩によって労働を機械に奪われるのが「技術的失業」という状態ですが、AIの普及による失業について、飯田先生はどう思われますか? 技術的失業が生じても、他の業種業界に「労働移動」すれば良いと一般に経済学は考えてきました。しかし、技術的失業をこうした「摩擦的失業」としてのみ解釈すべきではないというのが、一般の経済学とは異なる私独自の見解なのですが。

飯田 技術的失業は必ず生じます。問題はその失業が長期化するか否かです。このような業種業界を移動することのハードルによって生じる失業は摩擦的失業と呼ばれます。しかし、私は本来「摩擦的失業」という概念はあまり有用ではないと思うんですよ。景気が良ければ職は結構みつかる。好例が三池炭鉱と夕張炭鉱の閉山です。同じように失業者は出ましたが、高度成長期に起きた三井三池争議の場合、比較的スムーズに職の移転が進んでいました。それに対し、時期的に遅れて不況期に入ってしまった夕張などは失業が大きな社会現象になった。景気の良し悪しで「摩擦的失業」はその深刻度がまるで変ってしまう。

井上 なるほど。そうするとやはり、技術的失業に対してもマクロ経済政策、つまり景気を良くするような政策が有効に作用するというわけですね。私は技術的失業に対処するためには、金融政策によってマネーを増大させ、ゆるやかなインフレ状態を作り出すことが必要だと本の中で書いていたのですが、そこについてはいかがでしょうか。

飯田 同感です。企業も個人も、ローンや奨学金などの「負債」を持っています。デフレになると、負債が増えてしまうから、そうそう仕事を辞められない。インフレになっていれば、負債を気にせずみんなが安心して別の産業に移ることが出来る、または起業もしやすい。だから金融政策や財政政策が重要なんです。特に金融政策は必須のビタミンみたいなものですよ、足りなくなると死んじゃうっていう。一方で、終わっていく産業にやみくもに失業者手当てとかを出しちゃうと、成長を阻害してしまうと思います。

井上 むしろ転職に補助金を出すとか、労働移動したほうが得をするという政策にしないといけない、ということですね。

【次ページ】ベーシックインカムという新しい社会保障

人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊
井上智洋・著

定価:本体800円+税 発売日:2016年07月21日

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